警報ベルがけたたましく鳴った。
しまった、見つかったか。俺は舌打ちをした。Q社の社長室に忍び込み、企業秘密の設計データをPCから盗み出すところまでは、産業スパイとして成功だったが…。俺は、盗んだデータを入れた小さなメモリーを握りしめた。このメモリーをどこかに隠そう。捕まっても、後でそれを取り戻しにくればいい。では、どこに隠すか。俺は社長室を見回した…。
警備主任の島谷省吾は、不法侵入した男を見下ろしていた。男はあまり抵抗せずに拘束され、今は廊下の床に座り込んでいる。
「簡単につかまりましたね」警備員の一人の灰野が言う。
「男の身体検査はしたな」
「はい。でも、何も持ってません。警報が鳴って、盗る暇がなかったようです」
だが、島谷は首を傾げた。
今は膨大なデータを、小さなメモリーで持ち運べる時代だ。企業秘密をメモリーに入れ、どこかに隠した可能性はある。
島谷は、廊下から社長室に入った。
重厚な机と大きな書棚、それにソファセットというよくある造りだ。(図参照)
机の上には大きな画面のパソコンとキーボード。その回りに書類や文房具が置かれている。ホッチキスに、万年筆、文鎮…。エアメールとペーパーナイフも転がっていた。
陽が差し込む窓際には、桔梗の鉢植えがあり、大きな花がドアの側にいる島谷の方を向いていた。桔梗は6月頃から花開くと聞いたことがあるのを思い出す。
壁には額に入った風景画がかかっていた。
「あとは警察にまかせましょう」と灰野。「そうだな」島谷もうなずく。だが、その時にひらめいた。
(あれは不自然だ。もしかしたら…)
2分後、島谷はメモリーを見つけ出していた。
さて、警備主任はどこでメモリーを見つけたのでしょう?