IT企業の社長が、自宅で殺されているのが発見された。被害者・日比野錦司は、書斎の机に突っ伏すように死んでいて、背後から鈍器で頭を殴られ、出血多量で死んでいた。
「後ろに立たれても不審に思わなかったわけか…顔見知りの犯行だな」
加茂警部が言い、根木刑事もうなづく。
「それと、犯人はすぐに立ち去ったのか、瀕死の被害者が残した『メモ』に気づいていません」
根木刑事が、机の上にある紙を指差した。そこには『いまKYになぐられ』という書きかけの文字があった(図参照)。
警部は、机の上の万年筆を取り上げるとキャップをはずし、手近の用紙に文字を書いてみた。インクを比較し、この万年筆でメモが書かれていることを確認する。
「発見者は?」
「秘書の江崎晋也です。車で迎えに来て見つけたそうです」
◆江崎晋也の証言
「何度ベルを鳴らしても返事がなく、玄関の鍵もかかってなくて…書斎で死体を見つけ、手遅れとすぐわかりました。何も触らず、通報は携帯からしてます。KYですか。そのイニシャルの社員がいますが…」
◇ ◇ ◇
その後、イニシャルKYの社員が二人いて、どちらも社長に恨みがあるのがわかった。
◆湯元航平の証言
「薄給でこき使われ何度も文句を言ったよ。あの万年筆は社長の自慢の品だから、最期に文字を書けて本望だったんじゃない?」
◆矢野清隆の証言
「私の企画を自分の手柄にしたのが許せず訴訟まで考えてました。血を見ると卒倒するタイプなんで、殺人なんてできませんよ!」
加茂警部は、現場の写真を見直していて、ふいに自分の額をぴしゃりと打った。
「俺としたことが、これに気づかなかったとは…」
「どうしたんです?」と根木刑事。
「メモの真相がわかった。怪しいのは、あの男だ」
さて、警部が推理する怪しい人物とは?