マンションの一室で、男の死体が発見された。無断欠勤を心配して訪れた同僚が、管理人と共に部屋に入り、死体を見つけたのだ。
加茂警部に、根木刑事が報告を始める。
「死んだのは、広瀬秀和・37歳。外傷はなく、死因は心臓発作。もともと心臓が悪く、同僚もそれを心配して訪ねてます」
「病死か…事件性はないな」
「ところが奇妙なことが一つありまして…。防犯カメラを調べると、昨夜遅く、広瀬の部屋に入る女の姿が映っているんです」
「女? その映像を見てみよう」
◇ ◇
映像には、長い廊下と各部屋の扉が映っていた。午前0時過ぎ。手前から女の後ろ姿が現れる。茶色のコートを着て、足元も茶色のハイヒール。女は、広瀬の部屋の前で止まると鍵を取り出した。赤いマニキュアが目立つ指で鍵をまわしドアを開け、部屋へ入る。長い髪に隠れ、顔は見えない。
◇ ◇
「合い鍵を持った女がいたんですね」
「女が出ていく映像は?」
「ないんです。死体発見まで扉は閉まったままです。広瀬の部屋は1階なので女は窓から外へ出たのではないでしょうか」
「まず女性関係を調べてみるか」
その後の調査で二人の女性が浮かび上がった。
◆稲田彩乃の証言「看護師です。広瀬さんの入院で知り合い、付き合ってました。でも合い鍵は持ってません」
◆石黒理亜の証言「会社の同僚で、何度かお酒を飲みに行ったけど…ホラー好きの私は、心臓の悪い彼とは趣味があわなかったわ」
根木刑事が鑑識の報告を持ってきた。
「広瀬の部屋に二人の女性の指紋はありません。家具や扉についた指紋は、すべて広瀬のものでした」
「……消えた女が誰で、何が起きたのか、わかったよ」
さて、警部が推理する真相は?