時代劇でVサイン、センマイが好物 高橋洋子が語る「同期」の松田優作さん 6日に三十三回忌

北村 泰介 北村 泰介
11月6日の命日に三十三回忌を迎える松田優作さん
11月6日の命日に三十三回忌を迎える松田優作さん

 NHK朝の連続テレビ小説「北の家族」(1973年度)でヒロインを務め、作家として小説「通りゃんせ」(82年)が芥川賞候補になるなど、マルチな活動を続けてきた女優・高橋洋子が、芸能事務所スペースクラフト・エージェンシー所属となって2か月になる。10月にはプロデューサー、監督、脚本、主演を務めた短編映画「キッド哀ラック」が公開されたが、数々の作品を通した人たちとの出会いは今も糧になっている。その中で、11月6日に三十三回忌を迎える俳優・松田優作さん(享年40)との共演エピソードを聞いた。

 松田さんとは文学座付属研究所の同期。72年4月に入所した12期生だった。ちなみに1年先輩が桃井かおり、1年後輩が中村雅俊となる。

 高橋は同年公開の映画「旅の重さ」のオーディションに合格して19歳で主役に抜てきされ、翌年の朝ドラ主演でお茶の間の人気を獲得。松田さんも73年に日本テレビ系の人気ドラマ「太陽にほえろ!」にジーパン刑事としてレギュラー出演してブレークした。そんな同期2人が初共演したのが山本周五郎原作の大映映画「ひとごろし」(76年公開)だった。

 高橋は「優作さん演じる武士は犬が怖くて、まんじゅうが好きで、武芸が苦手。臆病なのに、藩主の命令で仕方なく丹波哲郎さん演じる指南役の首を狙う役。同じ原作の松竹映画(72年公開「初笑いびっくり武士道」)では萩本欽一さんが演じられていて、欽ちゃんの方がぴったりくる感じの役です。優作さんとのギャップの面白みもあって、こういう役が来たのかなと思いました。私はその敵討ちに協力する旅籠(はたご)の女将でした」と説明した。

 高橋は「2人で歩く道中でカメラが回っているというのに、優作さんは突然Vサインをしたんですよ。時代劇なのにね。そのシーン、実際に映画に出てきます。監督は大洲斉さんというオーソドックスに撮られるベテランなのに、それが通っちゃった。今でも不思議です」と振り返る。

 同作に限らず、随所でアドリブを考えて作品に風穴を開けようとしていた松田さんの役者魂。その背景について、高橋は「研究生の頃、『洋子は映画も朝ドラも、出てるからな…』と、NHKの朝ドラでヒロインになった私に対し、当時の優作さんから言われた言葉を覚えています。『太陽にほえろ!』に出られる前でした。『世に出たい』という思いが人一倍強い人だったと思います」と証言した。

 そして、4歳上の同期・松田さんと過ごした夏を思い出す。

 「私は京都の撮影所まで東京から小さな車を持って行ったんですが、撮影の合間、優作さんは『お~、よく来たな車で』とうれしそうに大きな体を丸めて助手席に座るんですよ。嵐山をドライブしたり、焼肉屋さんにも行きました。優作さんはセンマイ刺しが好きで、お肉はもっぱら私の担当。『洋子、肉食えよ』って。おかげで撮影中に太っちゃいました」

 同作が最初で最後の共演作。「あれは暑い夏でしたね。優作さんも私も、浴衣と下駄で撮影所に通いましたから」。45年前の撮影を懐かしんだ。

 その後、女優としてはブランクもありながら、高橋は今秋から心機一転、大手事務所で新たなスタートを切った。今後に向けて、「おっちょこちょいで、ひょうきんで笑える役もやってみたい。かつての私の主演作では、宝塚撮影所で撮った、普通の主婦が急に漫画家になって売れ出す話の『売れっこ女房』(関西テレビで79年放送の阪急ドラマシリーズの1本)とか面白かったですね。それまでシリアスな役柄が多かったので、楽しかったです」。その役柄のイメージに「ひとごろし」における松田さんが重なる。

 12月25日には都内の劇場・ザムザ阿佐谷で「キッド哀ラック」と「旅の重さ」を同時上映。聖夜に、最新作とデビュー作という2本立てで1年を締めくくる。

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