人生を豊かにする動物の存在をクローズアップし、少し風変わりな仕事に取り組む人々を取り上げる今企画。新潟県小千谷市の浄土真宗本願寺派極楽寺の住職、麻田弘潤さん(45)は本堂を活用したさまざまなイベントを催し、仏教書のほかに消しゴムはんこ作家としての著作を発表している。家族、生活、仕事のそばにはビーグル犬のラビ(2歳雄、9キロ)と、文鳥で飼育5年目のスノーちゃん、同3年目のココアちゃん(ともに雌)が常に一緒。麻田さんがユニークな日常を語った。
加点法と減点法
コロナ禍で出張がほとんどなくなり、ラビと毎日一緒にいます。彼は僕がちょっとトイレにいくだけでも「どこにいくの!?」と大騒ぎするくらい一緒にいたがるので、彼にとって今は悪くはないのかもしれません。それでもたまに出張もあり、数日お寺を空けた時には、「さぞかし寂しがって怒っているだろう」と思いながら帰宅するのですが、いつも全力で尻尾を振って喜んでくれています。
人は他者に対して100点満点の理想を設定し、それに合わないと「こんなはずじゃない」と責め、時には傷つける時もあります。いわゆる減点法で、それを仏教では欲望と捉えます。一方、ラビはそんな設定はせずにひたすら加点法で僕を見て「好きな人に会えた」という喜びを全力で表現してくれます。僕もこうありたいなと思います。
2年前、文鳥の餌を買いに利用するペットショップにビーグルがいました。そのビーグルはなかなか飼い主が見つからず、大きくなるにつれてどんどん値段が下がっていきました。その様子がつらくなって同じように思っていた妻と引き取りに行ったのですが、すでに飼い主が見つかっており、その子はいませんでした。なんとなく梯子を外されたような気持ちになり他も見てみようと行った別のお店にいたのがラビです。即決ですぐに連れてきたので、留守番していた長男がすごく驚いていたことを思い出します。
性格はおだやかで吠えることもほとんどなく、誰とでも仲良くでき、お寺の境内で遊ぶ近所の子ども達にも可愛がられています。家に迎えて1週間で肺炎にかかり、体が弱ったことで寄生虫が大量発生して、命が危ない時期がありましたが、今では3人の子どもに続く“4人目の子ども”だと思っています。僕の生活も変わりました。執筆活動や消しゴムはんこの制作活動でまともに寝ないこともしばしばだったのですが、朝夕の散歩をラビからねだられるので自然と生活リズムが規則正しくなりました。年齢的に無理な仕事がきつくなってきたので、身体のことを考えてラビが助けてくれたのかもしれません。
文鳥の2羽は書斎にいて、僕の話し相手をしてくれます。『気になる仏教語辞典』という本を執筆中はキーボードの上をウロウロするスノーちゃんに、愚痴であったり制作過程の話であったり、色んな話を聞いてもらいました。イラストやテキスト、漫画に京都観光案内と内容が多岐に渡ったので、スノーちゃんが聞き役になってくれたことでずいぶん頭の中が整理できたように思います。
ただ大切なものにフンを落とされてしまったり、お布施をくわえて飛んで行ってしまうこともあり、いつもカゴから出すわけには行きません。肩にフンを乗せたまま東京まで出張に行ったこともありました。できるだけ部屋を整理して、いつでも自由に部屋をとびまわれる環境を作ってあげたいと思っているところです。
■消しゴムはんこや著書で、仏教を親しみやすく
麻田弘潤さんは2006年、極楽寺で中越地震の復興イベント「極楽パンチ」をスタートさせた。ライブやヨガ、フリーマーケットなどのイベントも定期的に開催。著述活動では『気になる仏教語辞典』(誠文堂新光社)や、消しゴムはんこ作家として津久井智子さんとの共著『消しゴム仏はんこ。』『消しゴム仏はんこ。でごあいさつ』(同)を出版。消しゴムはんこの楽しさを紹介しながら、仏教の教えを伝えている。
昨年からは「参拝記念消しゴムはんこの日」を立ち上げ、参拝者の持ち寄った色紙や御朱印帳に消しゴムはんこを押しながら参拝者と対話を行っている他、オンラインも利用して悩み事などの相談を受ける機会も設けている。麻田さんは「最近はイベントで大勢人を集めるよりも一人ひとりとコミュニケーションを取りたいと考えていたので、コロナ禍になってからいろいろなことを始めています。いろいろな人の話を聞いていると、自分の抱えている問題に気づかない方もいらっしゃいます。それを一緒に見つけていくのも仏教や寺院のできる役割なのかと思います」と話し、僧侶の立場から発信できることを日々模索している。