長野県・岡谷市のうなぎ料理店「観光荘」が製造するうなぎのかば焼きが、このほど、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「宇宙日本食」の1次審査に通過した。同店を運営する「有限会社観光荘」の宮澤健社長が、過疎化が進む地元への思いを語った。
自社開発した「シルクうなぎ」のかば焼きを、2023年頃に国際宇宙ステーションへ搭載することを目指す。審査の基準を満たすため、同社は数千万円をかけて製造設備を改修。より徹底した衛生管理が求められるため、生のうなぎをさばく「汚染区域」やうなぎを焼く区域、完成品を包装する区域など「汚染」の度合いによって部屋を分ける必要があった。壁を新設したり、人間が部屋間を移動せずに製品を運搬できる冷蔵庫を導入したりと環境を整えた。9月から約12カ月間の保存試験を受け、来年11月に2次審査に挑む。
大規模な改修は、宇宙食製造のためだけではない。宮澤社長は、通信販売の強化やコロナ禍により衛生管理の重要性を再確認したと話し「これからのニーズに応えるためにやっていく中で、ちょうど宇宙食も一緒に取り組めるチャンスができた」と強調した。
宇宙食への挑戦は社員の意識向上にもつながったという。「(衛生管理)担当の子も『うなぎ屋に就職してJAXAと一緒にやりとりするなんて思ってもいなかった』と言っていた。実際に衛生環境もめちゃくちゃきれいになった」と頰を緩めた。
宇宙で食のニーズが生まれると見越して挑んだプロジェクト。ビジネス視点だけでなく、過疎化が進む地元・岡谷市の子どもたちへの思いも込められている。
「『岡谷って何もないよね』という空気があるんですが、そういう町から宇宙食として飛んで行ったら、子どもたちの目線も少し変わるのかなという思いがあって。そういう”科学の目”というのも養えたらいいなと」
11月には、地元の高校生と共に「うな重」を成層圏へ打ち上げる計画がある。7月に行ったテストフライトは全国から注目を集めた。「地方の飲食店や地方の高校生が考えついても『無理だろ』となることがあると思うんですが、チャレンジしてみたらこれだけ多くの皆さんから応援や反響をいただいた」と胸を張り、「たった1人にでもいいのでメッセージとして伝わって、1歩チャレンジするきっかけになればいいなと思います」と話していた。