東京五輪で海外絶賛の「安いコンビニ」の背景 低賃金などの事情を流通アナリストが解説

北村 泰介 北村 泰介
五輪モニュメント
五輪モニュメント

 新型コロナウイルスの新規感染者が急増し、緊急事態宣言下で無観客開催された東京五輪が8日に閉幕した。選手やスタッフらは選手村と競技会場、メディアは指定された取材環境に行動規制された中、日本文化を象徴する存在としてクローズアップされたのがコンビニエンスストア(以下、コンビニ)だった。SNSで中食や菓子などを高く評価する要因の一つには「安価」であることも含まれていたが、その背景を考えると単純に「日本すごい」とは言い切れない状況がある。流通アナリストの渡辺広明氏に見解を聞いた。

 コロナ禍が世界を覆う直前まで、欧米など先進国からの観光客、中国からの「爆買い」ツアーなど、日本はインバウンド消費の恩恵にあずかっていた。観光や買い物で来日する人たちにとって、日本は物価の安い国になっていた。コロナ禍にあっては、今回の東京五輪で限られた人たちが特別枠として来日し、日本のコンビニに置かれた商品をSNSで称賛するという現象が起きた。食品のクオリティーに加え、そこにコストパフォーマンスの高さを感じさせた価格の安さがある。

 渡辺氏は「海外から見て日本の商品はクオリティーに対して値段が安すぎると思われています。それは日本の非正規雇用を中心とする低賃金によるとところが大きく、欧米の場合は賃金が高いので、そこまで安くできないからです」と解説。先進国といわれる中で、日本では店舗のスタッフや製造元の労働賃金の安さなども背景にあるということを考えると、「日本の商品は安くてクオリティーが高い」という海外の評判にも複雑な思いになる。

 飲食チェーン店も日本と欧米先進国では価格差が大きい。渡辺氏は「ロンドンに丸亀製麺が初出店されましたが、かけうどんは約680円です。日本にいる人は『高い』と思われるかもしれませんが、現地ではこれが外食として割安感があります」と例に挙げた。ちなみに、丸亀製麺のかけうどんは、日本国内では「並」が320円とロンドンの半額以下。賃金の高い欧米と低賃金の日本との価格差がコンビニにも反映されているため、「こんなに安いのに、なんでおいしいの!」という驚きを伴った感動ツイートが世界に発信されたというわけだ。

 五輪後の景気を不安視する声もある中、渡辺氏は「アフターコロナでは、社会保障費の増額や増税なども予想され、人口減の今後の日本経済では引き続きの最低賃金のアップも考えられ、コンビニや外食が単価を上げる局面は近い将来、来るかもしれません」と指摘した。

 もう1点、コンビニのアルコール事情も世界の中では特殊だった。緊急事態宣言下ということで、夜8時には飲食店は閉まり、営業中もアルコール飲料は提供されないため、メディアや五輪関係者が仕事を終えて街で会食や飲酒できる店を探すことは難しかった。実際は要請を受け入れず、アルコール飲料を提供して深夜や未明まで営業している店も少なくないが、五輪関係者という立場的に行きづらい局面で、アルコール飲料が必要な人はコンビニで購入することになった。

 渡辺氏は「国によってコンビニの事情は違うが、少なくとも、アルコール度9%のストロング酎ハイなど安価で酔えるさまざまなお酒が、街の至る所で買える環境は世界的にも珍しい」と日本の事情を説明した。

 国内メディアは五輪報道一色となり、日本のメダルラッシュに湧いた今回の東京五輪も、8日夜の閉会式でフィナーレとなった。その周辺に目を向けた時、今回の五輪は日本のコンビニの裏事情や特殊性を改めて認識する機会にもなっていた。

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