昨年夏のパリ五輪前後に大きく騒がれたトコジラミ被害が、今も日本で問題になっているようだ。
すごく痒くなる、なんか大変そう……とイメージばかり先行するトコジラミ。また、先例が少ないのでどんな駆除業者を選べばいいかわからないという人も多いだろう。
兵庫県尼崎市の害虫駆除会社である有限会社トーメー(以下トーメー社)に、トコジラミ対策の現状と課題について話を聞いた。
「トコジラミの生態や駆除方法に関する誤解が多く、適切な対応ができていないことが多いんです」そう語るのは、トーメー社専務取締役の當銘武夫さん。
トコジラミは非常に強い生命力を持ち、ゴキブリが入れる隙間よりもさらに狭いところに隠れることができる。また、繁殖力も高いため、駆除が困難な害虫として知られている。よくある誤解として、主にゴキブリ向きに作られた霧を充満させるタイプのものを使う人がいるが、トコジラミをより奥へ追いやってしまいより駆除を困難にしてしまうそうだ。
「電話だけで判断できるはずがないのに適当な業者がいるんです」
どうやら、電話や写真などだけで、現地調査なしに駆除を行う不適切な対応が多いらしい。また、噛まれた痕や写真だけをみてトコジラミと判断するケースもあるという。
當銘さんはこれまで数々の皮膚科医に聞き取りをしてきたが、目視でトコジラミと判断するのは無理だと言われたそうだ。医者が分からないのに、駆除業者が目視や写真で、ましてや電話越しに判断するのは困難だろう。
ある日、トーメー社に「絶対トコジラミに違いない」と問い合わせがあった。「刺し痕は二口で、茶色い虫を絨毯裏で見たと思う。間違いない」と強い口調だったが、調査の結果、自身で業務用の強すぎる防虫剤をネットで購入し大量に設置したことによって、化学物質過敏症にかかっていたことが判明した。原因はトコジラミではなかったのである。
「痒い」と言われた瞬間、當銘さんには虫なら9種類が可能性が浮かぶそう。そこから被害者の性別や痒い部位、虫以外の可能性などから推測していくのだという。
トコジラミ被害は身体的な苦痛だけでなく、精神的なストレスも大きく、問い合わせの時点で既に平常心を失っている人が多いそうだ。さまざまなケースに対応した経験から當銘さんは「害虫駆除業には特別な免許は必要ありませんが、適切な知識と技術、あとは真摯さが不可欠ですね」と語る。
トコジラミ対策の一つとして、トーメー社は画期的な商品を開発した。その名も「安眠袋」。体の構造上ビニールの上を歩けないトコジラミの特性に着目した、布団を包み込むビニール袋だ。
「マットレスの縦方向ほどの長さを入口にできるビニールを開発できる工場が日本にほとんどなく、ようやく一社見つけました。変なこだわりかと思うかも知れませんが、それほどまでにトコジラミの痒さは辛いということです」
対策についても聞いた。
「冷静に状況を判断し、適切な情報を収集して駆除に挑むことが重要ですが、やはり状況によってプロのノウハウが必要だと思います。例えば、熱による駆除や有効成分ピレスロイドの入っているものは確かに有効ですが、30秒もすればそこをまたトコジラミが歩けるようになります」
トーメー社は業界全体で適切な駆除技術の研究開発や共有を目標に、一般社団法人日本トコジラミ完全駆除協会を設立したそう。また、今年Kindleでトコジラミについての知見を書いた本も今年出版予定とのこと。関心のある方はぜひ今後の発表をお待ちいただきたい。