「雪女」の舞台は東京都内だった 熱中症になりそうな日“ゆかりの地”に行ってみた

近添 真琴 近添 真琴
イメージです(無印かげひと/stock.adobe.com)
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 東京都青梅市を流れる多摩川にかかる調布橋。歩道と2車線の車道が設置された、地元住民が日常的に利用している橋だ。この調布橋のたもとに「雪おんな縁(ゆかり)の地」の石碑がある。実は調布橋周辺の多摩川が、小泉八雲の著書「怪談」の中の一編「雪女」の舞台なのだ。

  八雲の「怪談」は、1904年(明治37年)に発表された怪奇文学作品集だ。ギリシャ生まれの八雲(ラフカディオ・ハーン)が、日本各地に伝わる妖怪や怪奇現象を小説集としてまとめている。「耳無芳一の話」「ろくろ首」「むじな」など有名な怪談が収録されており、その中の一編が「雪女」だ。八雲は、雪女の話を「武蔵の国西多摩郡調布村(現在の青梅市)の農民が、自分の生まれた土地の伝説として話してくれた」と、英語版「雪女」の序文に記している。

  雪女の伝承は東北地方や北陸地方など、全国各地に存在している。八雲の「雪女」は、その中でも青梅市に伝わる物語を文学化したものというわけだ。

  八雲の「雪女」のあらすじはこうだ。ある冬の夕方、猛吹雪によって川を渡れなくなった2人の木こりが、川べりの小屋で一晩を過ごす。深夜、若い木こりが目を覚ますと、親方の木こりの上に白い着物を着た女が覆いかぶさって白い息をかけていた。女は次に、若い木こりのもとにやって来て顔を覗き込んだ。透き通るような肌をした美しい女だったが、とても恐ろしい目をしている。しかし、女は「今見たことを誰にも言ってはいけない。もし言ったらお前を殺す」と言い残し、そのまま立ち去った。翌朝、親方の木こりは凍死していた。

  その1年後、若い木こりは色の白いきれいな娘と出会い、夫婦となった。妻は10人の子供を産んだ。そうやって幸せに暮らしていた夫婦だったが、ある夜、木こりはかつて遭遇した、あの恐ろしい夜のことを思い出し、妻に話してしまう。そして、はかなく切ないエンディングをむかえることとなる――。

  筆者が青梅市の調布橋を訪れた2021年7月某日は35度近い猛暑だった。全身に汗をかきながら橋の下の多摩川の流れをのぞいてみた。水の流れは穏やかだ。熱中症になりそうなこの場所が「雪女」の舞台とは、にわかには信じられない感覚になる。江戸時代のころの地球は小氷期と呼ばれるミニ氷河期だった。東京都内の青梅市付近でも冬には猛吹雪が発生したのだろう。

  「雪おんな縁の地」の石碑は、調布橋の青梅駅側の端に建てられている。八雲の孫の小泉時が揮毫し、2002年に設置された。裏面には、英語と日本語の「雪女・序文」と、八雲の肖像写真の刻まれた金属プレートが埋め込まれている。

  調布橋の周辺には、10階建て以上のマンションや新築の一軒家が並んでいる。いわゆる住宅街だ。そんな日常の中に存在する「雪おんな縁の地」の石碑が、不思議な気持ちにさせてくれる。

 ◆「雪おんな縁の地」石碑:東京都青梅市千ヶ瀬町5丁目 JR青梅線、青梅駅から徒歩16分

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