主人公について「私自身はそれほど苦しい生活をしてきた訳ではなく、決して『当事者』ではありません。当事者ではない、でも決して他人事ではないという実感をフーカに託しています」と言います。一方でトーキョーから派遣された大学博士・正岡詩歌を「フィールドワーク先の島民から見た私のように、詩歌は外部の者です。部外者なのに当事者であるかのような顔をして研究するのが文化人類学です。研究結果に再現性が乏しいことが学問としての限界とされることもありますが、それが逆に強みでもあるように思います」と冷静に評価します。部外者が当事者をかたることは偽善である、しかし苦しむ当事者を前に部外者の立場を決め込むこともまた許されない…フーカと詩歌は、この矛盾を解きほぐす方法を模索し続けるまどめさん自身であり、また、当事者の現実を知ろうとしないままいわゆる「普通の暮らし」を送る私たちの目を開かせる存在でもあるように思いました。
作品のキャッチコピーを〝これは革命の物語である〟とした編集者の中川敦氏にも話を聞きました。「第1話に『私たちは何も知らなかった。この国がどういう風に成り立っているかなんて…』というフーカのモノローグがあります。本作は、彼女が特区での生活を通してこの国の仕組みを知り、その考え方と行動が変わっていく過程を描くものでもあります。部外者と当事者の狭間にあるフーカは、この作品を読む私たち読者そのものであり、政治家、資本家、軍隊といった明確な〝敵〟を特定できない新都トーキョーは、私たちが暮らすこの国の似姿です。もし、この作品を読む私たち一人一人がフーカとともに学び、ともに変化していったとしたらどのようなことが起きるのか…読者の皆さんと一緒に見届けたいと思います」と語っていました。
最新第5話では、保護特区内の識字率の低さを実感したフーカが、ウラミ放送局のラジオを通して、本の朗読を志願します。後ろ向きだったフーカが主体的に行動し始めました。まどめさんは「社会の被害者や犠牲者という一方的な描き方はしたくありません。この作品はドキュメンタリーのつもりで、自分にウソをつかないよう心がけています。自分の言葉だけだと誤解されるかもしれない。ぜひ漫画を読んでほしいです」と話しました。次回以降も楽しみに待ちたいと思います。
◆まどめクレテック 埼玉県所沢市出身。運命論者、ヒューマニスト。女性。画業に携わる両親の影響で幼い頃から絵画に親しみ、美術系の高校で日本画を学ぶ。漫画に取り組み始めたのもこの頃。同人誌活動を経て、デビュー作『生活保護特区を出よ。』を20年6月から連載開始。好きな作家は増田こうすけ、藤本タツキ、ますむらひろし、安孫子三和。