「目撃者が3人もいるのに、殺人犯の特徴が分からない?」
現場に着いた加茂警部は、部下の根木刑事の報告に顔をしかめた。 「はい。3人ともが、夜の闇にまぎれて逃げる人影を見たらしいのですが…」
「まずは事件をくわしく教えてくれ」
「今夜十時。高利貸しの古賀有造が、自宅の部屋で、頭を殴られて死んでいるのが発見されました。凶器は、被害者の部屋にあった青銅製の大きな壺で、それは庭に落ちているのが見つかっています」
「で、目撃者というのは?」
「まず死体を発見した、息子の古賀耕平。それから、隣の家に住む吉田貴洋と、古賀家を訪ねてきた足立昭也の3人です」
「話を聞いてみるか」
◆古賀耕平の証言「物音を聞いて部屋に行ったら、親父が血まみれで倒れていて驚きました。その時、窓の外に黒い人影がいて、逃げていく後姿が見えたんですよ。大声で叫んだけど…無駄でした。男の後ろ姿だったのは、確かですよ」
◆吉田貴洋の証言「大声が聞こえて、窓から隣りの庭を見たら、黒い影が逃げていくところでした。人影が何か重い物を落とし、庭石にあたって火花が出るのが見えましたよ。それが凶器の壺だったそうですね、刑事さんから聞きました」
◆足立昭也の証言「借金返済を待ってもらおうと家の前まで行ったら、人影が庭にいるのが見えたんだ。家の中から叫び声が聞こえ、影は家の裏手へ逃げたよ。あの壺は高価な品でね、犯人は持ち去って売りさばくつもりだったのかもなあ」
証言を聞いた加茂警部に、根木刑事が補足する。
「3人には動機がありますよ。息子は財産の相続、吉田と足立は被害者から高利の金を借りてました」
「嘘つきが一人いるよ。そいつが殺人犯だ」
さて、犯人は誰で、その根拠は何でしょう?