元宝塚歌劇団星組トップスターで女優の瀬戸内美八(79)が6月、朗読歌劇「心中・恋の大和路」に出演する。近松門左衛門の「冥途の飛脚」を題材に、宝塚バウホールで1979年に自身主演で初演、82年に再演した思い入れのある演目だ。初演から47年を経ても、凜としたたたずまいとハリのある声は変わらない。数え年なら「傘寿」。若さと美しさの源はどこにあるのか-。
-長く美しく活動されてきました。日々の健康で意識していることは?
「私はダンスのスタジオをやっております。ストレッチクラスを担当して、腹筋100回、スクワット80回。これを毎日続けています。土日はないですよ(笑)。ストレッチクラス(の生徒)は40、50歳くらいから85歳ぐらいまで。年齢も私と変わらないわけなんですよ。私は自分がこうなんだから『頑張りなさい!』って言えるんです(笑)」
-やはり、健康が大切。
「やっぱり元気だと、健康という美しさがあります。病気して寝込んでしまうと、しんどくなりますよ。だけど、寝込んでしまっても『体操しに行こう』って思ってくれるその気持ちを持っててほしい。そうすれば、また元気も出ます。なので、なるべくみんながコンスタントに来てくれるよう、そんなに難しいことはしません。スタジオに行くことは、私自身のためにもなっていると思いますね」
シニア世代は外出が億劫になりがちだ。社会に出て他者とつながることは、体力向上や認知症予防にも効果があるとされている。さらに瀬戸内は「見た目」を意識することで、内面から美しさが磨かれる効果を説く。
「ダンスの稽古をする場所なので(室内の壁は)全面鏡じゃないですか。横も鏡なんです。全面に大きな鏡があるっていうことは、自分の全身の姿を毎日見るわけ。自分が毎日鏡見てたら姿勢なんて悪くならないでしょう。みんなもそう。鏡を見るっていいことですね。それもなるだけ大きな鏡。人と比較できるような大きな鏡の前、それが自分の気づきになります」
常に「見られること」を意識してきた経験則。目を背けるのではなく、客観視する“強さ”が若々しいシルエットを育てる。
-運動以外に食事や睡眠で心がけていることは?
「動くと眠れますからね。食べ物はね、何十年も続けてるのが、めかぶと納豆。毎朝。味の付いていないめかぶをみじん切りにしてあるのを買うんです。納豆をまぜた上にめかぶを入れて、それだけを食べるんです。白米に乗せず、それだけ。食べられるくらいの味の濃さにして。それを毎日食べてますね。だから私、白髪ってないんですよ(スタッフ&取材陣驚きの声)。いや、あるけれど、ピッとあるくらい。生えてくるのは、まだ黒い毛。やっぱりめかぶとか納豆はいいんじゃないのかな」
-きれいに整えられたブラウンの髪。白髪染めではなくオシャレ染め?
「もちろんもちろんもちろん。白髪はピッピと出るくらい。スレッチクラスのみなさんの中でも、お年を重ねられると真ん中が(薄毛で)ぽこっと割れて、白髪や肌が見えたりする方もいます。よく来てる人たちだから、私も恥ずかしがらないで『あなた、ここ分かれてるし、ちゃんとしてきなさい』って言いますよ。言ってあげないと。誰も言わないですから。陰で悪口言うよりはいいかなって。(身だしなみを)気にすることって大事だと思います」
同じ世代、気心知れた仲だからこそ言えること。いくつになっても、キレイでいることを諦めてほしくない。
-あまり年を重ねている実感はない?
「いやいや、やっぱり頭の回転が鈍ってきます。あと、何かなぁ…。(郵便で)来るものが全部、後期高齢者のものが来るじゃないですか。そういう(通知の)書き物が『後期高齢者』で来ると、嫌でもそれを、あぁ私はそうなんだって思ってしまいますね。あと、ローンが組めない(笑)」
-気持ちが落ち込んだりしたとき、どのように立て直す?
「あんまりいろんなことくよくよしないし、考えても仕方のないことは考えない。だけど、ストレッチの教室で、お客さまではあるけれども、自分と同じような年齢の人とは、お互いに慰めたり、いろんな情報を交換したりしていますね。年を取っていることがマイナスではなくて、年を取ったんだからこうしようねっていうお話ができるし、ダンスのクラスもうちにはあるので、若い子たちの(流行の)移り変わりや情報をそこから知ることもできる。それをシニアに『これはこういうことなんだって』って教えてあげられるし、そうした交流の場が良い感じかな、と思っています」
-若い頃は気づかず、今だから分かることは?
「若い頃は舞台に出てても、ウケ狙いって言うとおかしいですけど、お客さまが笑ってくれると、それがどんどん増長していってしまって。そういうのをこちらも面白がってやったりしましたけど、それはほかの方(共演者や制作陣)にとても失礼だってことはあまり気づかなかったですね」
-座右の銘、大切にしている言葉は?
「座右の銘は『今日が一番若い』。それしかないですね、今が一番若い!ハタチから30歳までは『青春の夢に忠実であれ』って言ってたんですよ。でも、もう40ぐらいから、『今日が一番若い』。明日は今日より1日年を取ってるんだと思ったら、ぞぞってするようになりまして(笑)」
-役者はさまざまな役柄の人生を体験します。年を重ね「生きること」とはどのようなことでしょうか?
「そんな大きなテーマは困りますね(笑)。演じるだけでなくて、本を読んでもそうじゃないですか。あぁ、私はそこまで達観できないなとか、そんなことをいろいろ感じながら読んだり演じたりはするけど、やっぱり自分の人生とは違いますよね。それをイコールにはしないですね。その人たちの生きざまを。例えば忠兵衛がああやって封印切り(注:「冥途の飛脚」並びに「心中・恋の大和路」で主人公が感情のまま、封を切ってはいけない金銭の封印を破る名シーン)して、自分の命がなくなる、みんなが地獄に落ちるのが分かっていながらも封印切りする。でもそれはもう、若さ故にそうしてしまう…。いま、私たちでは、そんなこと考えられないでしょう。年齢を重ねると、おのずと絶対しちゃいけないことはやっぱりしないでしょう。生きるって『ガマン』も必要ですね」
-忙しい日々の中で、心が穏やかになる時間とは?
「この頃は自分も含めてシニアの人たちはけっこうちっちゃいコミュニティーを作っています。それぞれの趣味でお花だったり、小説だったり、犬がいるからとか。昔ね、うちに23匹いたんですよ。保護犬。その頃は充実してたし、そういうお仲間もたくさんできる。今は3匹しかいないんですけど、その3匹の子のお友達ができるじゃないですか。犬関係のお友達、ご飯食べに行ったときのお友達、これは仕事関係、こっちは体操っていうふうに、いろんなつながりがあるっていうことは、穏やかとは違うかもしれませんが、楽しみではありますね」
-最後に同世代の方へメッセージを
「もう、今日が一番若い!本当にそう思います。いつか『できなく』なるんですよ。それは、近い将来だと思うんです。でも、それまでは、元気な体を持ってて、できたら楽しく舞台に出させていただけたらいいなぁと。やっぱり自分が必死になれるものを持つこと。趣味でもいいし、仕事でもいいし、何かやりがいのあるものを持つことが、私たちの同世代の人たちが元気でいられることなんじゃないかなって思います」
明朗快活な話しぶりと、よく響く笑い声が印象に残る。年を重ねることを受け入れつつ、美しく健康でいることに自然体で向き合う姿は、前向きな言葉の数々とともに、シニア世代の日々を豊かに生きるヒントを感じさせた。
今日が一番、若い-。
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朗読歌劇「心中・恋の大和路」は6月24日~28日、東京・草月ホール、7月2日、3日に兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールで上演される。
◆瀬戸内美八(せとうち・みや) 徳島県出身。1966年宝塚歌劇団入団。花組、月組を経て1979年星組トップスター。代表作に「心中・恋の大和路」「小さな花がひらいた」「海鳴りにもののふの詩が」など。1983年、「オルフェウスの窓」で退団。退団後は徳島市で「ダンススタジオひまわり」を主宰。刑務所の篤志面接委員も務め、徳島を拠点に舞台活動を行っている。愛称は「ルミ」。