街中で見かけた悪質なポイ捨て。「マナー違反を許せない」「社会に問題を提起したい」という正義感から、注意している様子を動画に撮ってSNSへ投稿する人がいる。しかし、投稿後に相手から名誉毀損で被害届を出され、「公益目的だから無罪だ」と主張してもトラブルになるケースもあるようだ。
相手に非があっても、晒し動画を投稿することに法的なリスクがあるのだろうか。違法性阻却の限界や正しい対処法について、まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ーポイ捨て注意動画の投稿に「公益性」は認められますか?
名誉毀損罪の違法性が阻却される要件の一つに「目的の公益性」があります。ポイ捨てというマナー違反や軽犯罪をなくすという社会問題提起の側面はありますが、特定の個人をSNSで晒し上げる行為は、単なる私刑や個人的な制裁目的とみなされかねません。
公共の利益を図る目的よりも、相手を非難して溜飲を下げる目的が主だと判断された場合、法的な「公益目的」としては認められない可能性が高いです。
ー個人の顔や特徴を晒した投稿でも「違法性阻却」は成立しますか?
成立する可能性は低いでしょう。名誉毀損の違法性阻却には「事実の公共性」「目的の公益性」「真実性の証明」の3つが揃う必要がありますが、一般人の軽微な法令違反を不特定多数に晒す行為は、公共性や公益性が否定されがちです。
さらに、個人の顔や車のナンバーなどを晒す行為は名誉毀損だけでなく、肖像権やプライバシー権の重大な侵害(不法行為)となります。「悪いことをしたのだから晒されて当然」という主張は法的には通用しません。
ー名誉毀損で被害届を出された場合、逮捕や処罰のリスクはありますか?
名誉毀損罪(刑法230条)は親告罪であり、被害届や告訴が出されれば警察の捜査対象となります。動画の拡散具合や相手が受けた被害が甚大で、証拠隠滅や逃亡の恐れがあると判断されれば、逮捕される可能性も十分にあります。
刑事罰(3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金)に処されるだけでなく、民事裁判で数百万円単位の高額な慰謝料や損害賠償を請求される恐れもあります。
ー悪質なマナー違反を社会に訴えたい時、法的に安全な投稿方法はありますか?
どうしても社会に問題提起をしたい場合は、個人の特定を完全に防ぐ配慮が不可欠です。顔や体型、車のナンバープレート、制服などにモザイクや加工を施し、日時や場所も特定できないようぼかす必要があります。
「誰がやったか」ではなく「どのような問題が起きているか」という事象のみに焦点を当ててください。しかし、最も安全で適切なのはSNSに投稿して私刑を下すことではなく、証拠動画を持って警察や自治体に直接通報・相談することです
●北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。