50代後半のAさんは兄弟がいないため、両親の世話を1人で背負っていた。少しの介助があれば自宅で過ごせる母とは同居し、重度の認知症を患う父はここ数年施設で暮らしている。父の年金と貯金で施設費を賄ってきたが、その貯金も残りわずか。数カ月後には月18万円ほどをAさんが負担する予定だ。
そんな中、妻の実家でも大きな問題が持ち上がっていた。義父はすでに他界し、義母は数年前から施設で暮らしている。その施設費はこれまで義兄が払ってきたが、数カ月前に体調を崩してからは満足に働けず、費用を出し続けるのが難しくなったという。そこで義兄から妻に「施設の利用料が月16万円ほど足りないから、半分の8万円を負担してほしい」と相談があった。
しかし、専業主婦の妻には収入がなく、実父の施設費を払うだけで家計はカツカツ。そのうえ義母の施設費まで背負うとなると、Aさん自身の老後資金にまで手をつけざるを得ない。
妻が事情を説明して断ると、義兄から返ってきたのは「親不孝者」というひと言だった。そんな心無い非難に、Aさん夫婦は「うちだって余裕があるわけじゃないのに、どうしてそこまで言われないといけないのか…」とこぼした。
Aさんは自分たちの老後資金を切り崩してまで、義実家への援助をする必要はあるのだろうか。アディーレ法律事務所の大垣優希弁護士に話を聞いた。
「親不孝者」という非難は、法的な扶養義務の考え方とは相容れない
ー義理の親の生活費や施設費用について、法律上の扶養義務は発生するのでしょうか?
民法上の扶養義務を負うのは、通常は直系血族(祖父母、父母、子、孫など)と兄弟姉妹に限られており、配偶者の親に対しては、必ず扶養義務が発生するわけではありません。家庭裁判所が特別な事情があると判断した場合には、三親等内の親族にまで扶養義務を負わせることができますが、実際に認められるケースはごく限定的です。
したがって、特別な事情が認められない限り、婿や嫁という立場で義理の親の生活費や施設費用を法的に負担する義務はありません。支払うとすれば、それはあくまで厚意による援助であり、義実家の要求に応じるかはこちらの判断に委ねられます。
ーAさんの妻のように血のつながりがあっても、専業主婦で収入がない場合、親に対する扶養義務はどこまで求められるのでしょうか?
実の子には親を扶養する義務がありますが、これは「自分の生活を犠牲にしてまで援助する」という重い義務ではありません。自分の生活に余力がある範囲で援助すればよい「生活扶助義務」にとどまります。
専業主婦で収入がなく、家計にも余裕がない場合、援助できる資力がないと判断されるのが一般的です。そのため、援助を法的に求められる可能性は高くないと考えられます。
親への援助をどこまで行うべきかは家族それぞれの事情によって異なりますが、少なくとも法律上は、援助が難しい事情があるにもかかわらず、親を支援していないことだけを理由に「親不孝者」と評価されるものではないでしょう。
ー今後も義実家から繰り返し金銭を要求された場合、こちらでできる対処法はありますか?
まずは、やり取りをメールや手紙など記録に残る形で行い、経緯を保存しておくことが大切です。あわせて、こちらには法的な扶養義務がないとの考えを明確に伝える内容証明郵便などの書面を送っておけば、後々の認識の食い違いを防ぐことにもつながります。
それでも金銭の要求や非難が執拗に続き、精神的な負担が大きい場合には、弁護士に対応を依頼したり、家庭裁判所の調停や審判を利用したりして、公的な場で解決を図ることも考えられます。ご自身の立場や義務の範囲を正しく理解しておくことが、不当な負担を抱え込まず、冷静に対応するための助けになるでしょう。
◆大垣優希(おおがき・ゆうき) 弁護士/アディーレ法律事務所
第一東京弁護士会所属。夫婦問題や遺産相続、債務整理など、多様な一般民事分野に関心を持つ。日本化粧品検定1級の資格も保有し、法律分野にとどまらず専門性を深めながら、身近な悩みに根拠をもって寄り添う解説を志す。
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