公立中学教員のAさんは、平日も土日も休む間なく働いている。保護者対応や会議に追われて仕事が終わらず、週の半分以上は深夜まで自宅でテストの採点、教材作りに励む。土曜日は学校で部活動の指導、日曜日は自宅で生徒からの提出物チェックをおこなっていた。
また、こうした休日出勤や自宅での持ち帰り作業には手当が付かず、振替休暇ももらえなかった。それでも「自分がやらなきゃ生徒に迷惑がかかる」という責任感から仕事を抱え込んできたAさんだが、疲労が限界に達したことから学校で倒れてしまい、入院することになってしまう。
公立学校の教員には、民間の労働者とは違った給与・勤務時間制度が適用される。休みらしい休みもないまま働き続けてきたAさんに、どのような補償や法的手段が考えられるのだろうか。アディーレ法律事務所の島田さくら弁護士に話を聞いた。
まずは勤務先の人事・給与担当部署に確認を
ーそもそも公立学校の教員が残業をした場合、残業代を請求できますか?
公立学校の教員には、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法(給特法)が適用されます。原則として時間外勤務手当や休日勤務手当は支給されず、代わりに教職調整額が支給されます。そのため、公立学校の教員が残業をした場合でも、民間労働者と同様に時間数に応じた残業代を当然に請求できるわけではありません。
なお、教職調整額は、従来、月額給与の4%相当額とされていましたが、法改正により、10%まで段階的に引き上げられることとなっています。
ーAさんのように無理を重ねて体調を崩してしまった場合、法律上どんな補償を受けられますか?
地方公務員には、病気休暇制度があり、病気などにより勤務できなくなった場合、自治体によっては、90日を上限として給与が全額支給されます。病気休暇の終了後も勤務できない場合は、病気休職に移行し、一定期間、給与の80%が支給されることがあります。その後、給与が支給されなくなった場合でも、要件を満たせば、共済組合から一定期間傷病手当金を受給できる可能性があります。
ただし、病気休暇の期間、休職中の給与および共済組合の傷病手当金などの取扱いは、所属する自治体の条例や規則、共済組合の制度等によって異なるため、注意が必要です。具体的な内容については、勤務先の人事・給与担当部署または加入する共済組合に確認してください。
また、病気が仕事(公務)に起因すると認定されれば、公務災害として治療費などの療養補償や、給与を受けられない期間の休業補償などを受けられる可能性があります。公務災害の認定には、病気と業務との間に相当な因果関係があるかが重要です。脳・心臓疾患や精神疾患の場合、発症前の勤務時間、休日勤務の状況、業務内容、心理的負荷などが総合的に検討されます。
ー自宅への持ち帰り作業は、法律上「労働時間」にあたりますか?
労働時間にあたるかは、「使用者の指揮命令下に置かれていたかどうか」により判断されます。そのため、明確な指示がなくても、労働時間と認められる場合があります。
たとえば、勤務時間内では到底処理できない量の仕事を任され、期限までに完了する必要があるため、持ち帰り作業を余儀なくされていた場合には、黙示の指示があったと認められる可能性があります。
また、持ち帰り残業については、自宅での作業時間や作業の成果を示す客観的な資料があるかどうかも重要です。タイムカードなどに記録されない分、パソコンの使用状況のログ、メールの送信記録、ファイルの作成・更新履歴、持ち帰り残業で作成した成果物などが重要な資料になります。日頃から意識して保存しておくといいでしょう。
ーこうした労働環境を改善してほしいと伝えるには、どのように相談するのが効果的ですか?
感情的に伝えるのではなく、何にどれくらいの時間を使っているかを整理したうえで、管理職に相談することが有効です。
加えて、単に「忙しい」という個人の不満として伝えるのではなく、担当業務の削減や分担の見直しなど、学校全体の負担軽減という切り口で改善策を提案すると、受け止められやすいでしょう。
管理職に相談しても改善されない場合には、教育委員会や人事委員会などの窓口に相談する方法もあります。
◆島田さくら(しまだ・さくら) 弁護士/アディーレ法律事務所
熊本県出身。退職代行、不当解雇、パワハラなどの労働問題全般に精通。在日ASEAN加盟国大使館の領事担当官に対し、民間の法律事務所初となる労働法講演を行った実績を持つ。テレビやラジオの番組にも数多く出演し、幅広い分野への対応力にも定評がある。東京弁護士会所属。
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