会社員のAさんは、節約に余念がない。スーパーで買い出しをする際は、いつもどおり見切り品コーナーに直行し、半額シールが貼られた食品ばかりを買い物かごに詰め込む。帰宅してからは、気温30度を超える熱帯夜にもかかわらず、エアコンは決してつけない。さらに同僚からの飲み会の誘いは、理由を付けて毎回断っていた。
極力お金を使わない生活を送るAさんだが、じつは大手企業勤めで5000万円もの資産を持っている。それでもAさんは、お金を使うことが怖くて仕方ないようだ。
Aさんのように収入や資産に余裕があるにもかかわらず、お金を使うのが怖いという人は少なくない。では、なぜお金を使うことが怖いと感じてしまうのだろうか。ファイナンシャルプランナーの川部紀子さんに話を聞いた。
漠然とした不安がお金を使うことへの抵抗感を生んでいる…
―収入が不足しているわけでもないのに、なぜお金を使うことを怖がってしまうのでしょうか?
Aさんのように、単なる節約志向からではなく、お金を使うこと自体に強い恐怖感を覚える心理状態は『お金使えない症候群』と呼ばれています。この心理が働いたために、自身の健康よりも出費を抑えることを優先してしまうケースは少なくありません。
たとえば、電気代が気になって真夏、真冬でもエアコンをつけなかったり、食費を削るために1日1食で生活したりする人もいます。
―この『お金使えない症候群』に陥ってしまう原因はなんでしょうか?
原因は3つあると考えています。1つめは、結婚費用や子どもの教育資金、老後資金など、将来まとまった金額が必要になる場面への漠然とした不安です。
これらの費用はいつ、どれくらいの金額がかかるのか見通しを立てづらいため、実際に足りるのかわからず不安材料になりがちです。結果として、今後起こりうる資金ショートのリスクに備えて、お金を使えなくなってしまいます。
2つめの原因は、家計を正確に把握できていないことです。毎月の収支、そして手元にどれくらい余裕があるのか、さらに退職金など将来の収入の見込みなどを掴めていないと、今使ってもいい金額の基準がわかりません。そのため、使いすぎてしまうのでないかという不安がよぎり、支出自体を避けてしまうのです。
3つめの原因は、幼少期の環境です。
子どもの頃から親に「無駄遣いはだめ」「ちゃんと貯めておかないと」と厳しくしつけられると、お金を使うことへの抵抗感が育まれる場合があります。また、経済的に余裕のない家庭で育った経験から、大人になって自分で稼ぐ力がついてもなお、お金を使うことに慎重になってしまう人もいます。
日本特有の「質素倹約」「清貧」を美徳とする歴史的な背景もあるかもしれません。
―「お金使えない症候群」を克服し、安心してお金を使えるようになるためには、どんな対策がありますか?
まず、「一生節約生活をして、亡くなる時がもっともお金持ちの自分」が幸せかどうか考えてみてください。それから、今後どのような暮らしをしたいか、何にお金を使いたいかなど貯める目的を考えてみましょう。おそらく今は「貯めること自体が目的」になっているのではないでしょうか。
さらに、自分の収支や将来のライフイベントにどれくらいかかる見込みなのかを見える化しておくと安心です。
もし自分だけでこうしたお金の状況を整理するのが難しい場合は、ファイナンシャルプランナーに相談するのも1つの手だといえます。また、幼少期の家庭環境が原因でお金を使えない人については、少額でもいいからお金を使う練習をしてみるのも有効です。
幸せなお金の使い方をイメージし、メリハリのある使い方をすれば、支出への納得感が生まれるはずです。
◆川部紀子(かわべ・のりこ) ファイナンシャルプランナー
保険会社勤務8年間を経て、現在は「FP・社労士事務所川部商店」代表として、ファイナンシャルプランナーおよび社労士の業務にあたる。お金に関するキャリアは30年超え。個人レクチャー、講演の受講者は3万人以上。
▽FP・社労士事務所川部商店ホームページ
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