長年連れ添った夫を亡くしたAさん。悲しみに暮れる中、夫の遺留整理を始めようと銀行へ向かったところ、窓口で思いも寄らない言葉をかけられた。一通りの書類に目を通した担当者は、「旦那様には前妻との間にお子さんがいらっしゃいますね。その方の同意がないと、預金の払い戻し手続きは進められません」という。
この子どもについて、夫から存在は聞いていたもののAさんは1度も会ったことがなく、名前以外は何も分からないのだ。「どこにいるかも知らない相手と、どうやって話し合えばいいの?」とAさんは途方に暮れてしまう。こうした「会ったことのない相続人」がいる場合の解決策について、北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞いた。
ー前妻との間に生まれた子供であっても、夫の遺産を受け取る権利はあるのでしょうか?
法律上、強い権利を持っています。離婚したからといって、親子の血縁関係が消えるわけではありません。前妻との子も「第一順位の法定相続人」となります。
Aさんのケースで、Aさんと夫の間に子供がいない場合、相続分は「妻(Aさん)が2分の1、前妻の子が2分の1」となります。もしAさんとの間にも子供がいれば、子供同士は4分の1ずつの相続分になります。
ー連絡先が不明な場合、どうやって相手の居場所を調べればよいのでしょうか。
「戸籍」をたどることで、少なくとも現在の住民票上の住所は特定できます。
まず、亡くなった旦那様の「出生から死亡までのすべての戸籍謄本」を取得します。そこから前妻の子の情報をたどり、その子の「戸籍の附票(こせきのふひょう)」を請求します。なお、請求にあたってはそれぞれ法律上の制限があり、法律にのっとった資料提供等が求められます。
附票には、その戸籍に入っている間の住所の履歴が記録されているため、現在の住民票上の住所を知ることができます。ご自身で行うのが難しい場合は、弁護士などの専門家に依頼すれば、各種の法律にもとづく範囲内で調査を行うことが可能です。
ー関わりたくない場合、今の家族だけで遺産を分けることは可能ですか?
預貯金の一部の払戻しを受ける制度はありますが、相続財産全体の分割は困難といわざるをえません。
遺産分割協議は「相続人全員」で行わなければならず、一人でも欠けていればその協議は法的に無効となります。銀行などの金融機関や法務局(不動産の名義変更)も、相続人全員の署名と実印、印鑑証明書が揃わなければ、手続きを受け付けないのが基本です。まずは相手に手紙を送るなどして、誠実に協議を持ちかける必要があります。
ー誰も連絡がつかない場合はどうすればよいですか?
どうしても行方が分からない場合には、家庭裁判所に申し立てて「不在者財産管理人」を選任してもらうという方法があります。これは、行方不明者に代わって財産を管理する人を申立てる制度です。この管理人が家庭裁判所の許可を得て、Aさんと遺産分割協議を行うことになります。
また、7年以上行方不明であるなどの条件を満たせば「失踪宣告」を申し立てることも検討できますが、いずれも専門的な手続きが必要です。
◆松尾武将(まつお・たけまさ) 行政書士
長崎県諫早市出身。前職の信託銀行時代に担当した1,000件以上の遺言・相続手続き、ならびに3,000件以上の相談の経験を活かし大阪府茨木市にて開業。北摂パートナーズ行政書士事務所を2022年に開所し、遺言・相続手続きのスペシャリストとして活動中。ペットの相続問題や後進の指導にも力を入れている。