大事な商談に向かうためタクシーを利用した男性は、一刻を争う状況であったため、運転手に「急いでいる」と告げた。しかし運転手は彼が熟知している近道を選ばず、工事と渋滞で動かない大通りへと車を進めたのである。彼が指摘しても、運転手は「こっちの方が早いんです」と言い張り、譲らなかった。
商談には滑り込みで間に合ったものの、運賃は普段より1500円も高くなっていた。これに対して「わざと遠回りしたのか?」と納得のいかない彼は、差額は払わないと主張するのだった。
こうしたタクシーのルート選択と運賃を巡るトラブルについて、まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー「遠回り」を理由に運賃の支払いを拒否することは法的に認められますか?
メーターに表示された運賃の支払いを一方的に拒否することは難しいでしょう。タクシーに乗車した時点で、乗客とタクシー会社の間には「旅客運送契約」が成立しています。目的地に送り届けてもらった以上、その対価として運賃を支払う義務が生じます。
たとえ遠回りだと感じても、完全に支払いを拒否したり、自分の判断で金額を決めたりすることは認められません。もし支払わずに立ち去れば、たとえ少額であっても重大なトラブルに発展します。
ー「わざと」の遠回りか、単なる「ミス」か、判断基準はどこにあるのでしょうか。
ここが非常に難しいポイントです。道路状況は刻一刻と変わるため、どのルートが「最適」かは一概に決まりません。運転手が「渋滞を避けるために広い道を選んだ」と主張し、それが客観的に見て著しく不自然でなければ、善意の判断として尊重されます。
ただし、乗客が最初から「この道を通ってください」とルートを指定したにもかかわらず、運転手が合理的な理由なく無視した場合は、契約上の義務に違反したとされる可能性もあります。それでも「差額分の立証」は難しく、現場で解決するのは容易ではありません。
ー「納得いかないから」と1円も払わずに降りたら、何の罪に問われますか?
その場を立ち去れば、いわゆる「乗り逃げ」となり、刑法の「詐欺罪」や、自治体によっては「軽犯罪法違反」に問われる可能性があります。無銭飲食などと同様に扱われ、警察を呼ばれれば身柄を拘束されるリスクもあります。感情的になって「1円も払わない」という極端な行動に出ることは避けるべきでしょう。
ー不満がある場合、その場で取れる「最も賢い対処法」は何ですか?
まずは感情を抑えて冷静になることが先決です。具体的には、運転手の氏名や車両番号を確実に控え、その場では一旦メーター通りの運賃を支払うことをお勧めします。支払いの際には必ず「領収書(レシート)」を受け取ってください。これには乗車区間や車両の情報が記録されており、後で抗議を行う際の極めて重要な証拠となります。
その場での言い合いは避け、後ほどタクシー会社のカスタマーセンターや、各地域にある「タクシー近代化センター」などの公的な窓口に事情を説明して、適切な処置や返金を求めるのが、確実でリスクの低い解決策といえます。
●北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。