会社員のAさんは、毎朝利用する駅の改札横でイベントのチラシを配っていることに不快感を持っていた。その場所は通勤客で混雑しており、チラシを受け取らないように避ける人々で歩行の流れが滞っているからだ。
そんなある日、駅員がチラシを配る人「ここは会社の敷地内なので、許可なく配らないでください。移動してください」と注意している場面に遭遇することに。しかしチラシ配りをしている人は「表現の自由を妨害するのか!」と反論し、チラシ配りを止めようとしない。
この光景を見たAさんは「駅の改札前って、自由に活動していい場所なの?」「駅員が無理やりどかせたら問題になるの?」と疑問に感じるのだった。このように駅構内や改札付近でチラシを配布することは罪になるのだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー駅の改札横や通路は、公道(道路)と法的に何が違うのですか?
そこが「私有地」であるか「公有地」であるかという点です。
一般的な道路は国や自治体が管理する公有地ですが、駅の改札や構内、通路の多くは鉄道会社が所有・管理する私有地です。たとえ不特定多数の人が自由に行き来できる場所であっても、法的には百貨店の店内やオフィスビルのロビーなどと同じ、鉄道会社の施設の一部です。
これを「鉄道施設」と呼び、所有者である鉄道会社には、施設を安全かつ適切に運営するための「施設管理権」が認められています。
ー無許可でビラ配りを続ける配布者に適用される罪はあるのでしょうか?
まず考えられるのは、刑法第130条の「不退去罪」です。駅員や管理者から「立ち去ってください」と要求されたにもかかわらず、その場に居座り続けた場合に成立します。
また、「鉄道営業法」という法律も関係します。同法第35条には、鉄道会社が定める禁止事項に違反したり、正当な理由なく鉄道地内に立ち入ったりすることを禁じる規定があります。鉄道会社の承諾なく営業活動や宣伝活動を行うことは、この法律に抵触する恐れがあります。
そのほか、状況によっては軽犯罪法違反に問われるケースもあります。
ー警察が発行する「道路使用許可」があれば、駅構内でも配れるのでしょうか?
いいえ、それはできません。道路使用許可はあくまで「公道」を使用するための許可であり、私有地である駅構内には効力が及びません。
駅構内でビラ配りなどの活動を行うためには、警察の許可とは別に、所有者である鉄道会社自身の許可が必要です。鉄道会社は、乗客の安全確保や円滑な輸送を第一に考えますので、混雑の激しい改札前などでの配布活動を許可しないのが一般的です。
ー「表現の自由」を盾に粘る配布者に対し、法的な強制力はあるのでしょうか?
「表現の自由」は憲法で保障された重要な権利ですが、決して無制限に認められるものではありません。他人の財産権(施設管理権)や、公共の安全(駅利用者の安全な通行)を侵害してまで認められるものではない、という考えが一般的です。
駅員が立ち去るように求めているにもかかわらず配布者が居座り、通行の邪魔になるような場合、鉄道会社は警察に通報して排除を求めることができます。配布者が「自由だ」と叫んだとしても、法的な正当性は施設管理権を持つ鉄道会社の側にあります。
万が一、配布活動によって歩行者が転倒して怪我をした場合、配布者が損害賠償責任を負う可能性があることも忘れてはなりません。
●北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。