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長谷川和彦氏が死去「新作が撮れなかった巨匠監督」愛猫に重ねた切実な思い、幻の構想「連合赤軍」の背景

北村 泰介 北村 泰介
30代前半で日本映画史に残る傑作「青春の殺人者」と「太陽を盗んだ男」を監督した長谷川和彦さん(2022年10月撮影)
30代前半で日本映画史に残る傑作「青春の殺人者」と「太陽を盗んだ男」を監督した長谷川和彦さん(2022年10月撮影)

 映画「太陽を盗んだ男」で知られる映画監督の長谷川和彦氏が1月31日に多臓器不全のため都内の病院で死去したことが1日に報じられた。80歳だった。同作は1979年の公開後も劇場での再上映、ビデオやDVD、CS放送、配信などで幅広い世代にインパクトを残してきた。自身は生涯を通じて新作への意欲を公言していたが、その夢はかなわなかった。3年前の現場で、長谷川氏が映画人として吐露した言葉を振り返った。

 若き日の水谷豊と原田美枝子が共演し、ブレイク前のゴダイゴによる音楽も印象的だった監督デビュー作「青春の殺人者」(76年)は30歳の時で、「キネマ旬報」ベスト・テン1位を獲得。原爆を自作して国家に「プロ野球ナイター中継の延長」や「ローリング・ストーンズ来日公演」を要求する中学教師役の沢田研二、刑事役の菅原文太さん(2014年死去、享年81)が対決する2作目の「太陽を盗んだ男」はその圧倒的な熱量と娯楽性、破天荒さで時代を超えた傑作となった。当時33歳だった。

 当然、3作目となる新作への期待は高まったが、そのハードルは高かった。30代前半で日本映画史に残る傑作2本をものにした後、新作を世に出せないまま時は流れ、“伝説の映画監督”とも称された。一方、麻雀の腕前から雀士としてメディアに登場することもあった。

 そんな長谷川氏が2023年5月3日に「長谷川和彦44年目の咆哮」と題したライブストリーミングチャンネル「SUPER DOMMUNE」の番組に出演し、記者は都内の公開スタジオに足を運んだ。げた履きで登場した長谷川氏は当時77歳の喜寿を迎えていたが、トレードマークのサングラス、ラフな普段着で新作にかける思いをストレートに語った。

 ある有名女性歌手の主演映画など、数々の企画が監督候補作として持ち込まれた舞台裏もあった。その全てが実現しなかった理由について、長谷川氏は「本当に面白い企画でないとやらないぞ…みたいな、そういうところが俺は強いんだよな。『絶対に面白くて、絶対に撮る意味がある映画しか撮らないぞ』みたいな、ある意味、ちょっと、ごう慢なんだよな」と述懐した。

 その「撮る意味がある映画」として同氏が意欲を示した題材は「連合赤軍」(略称・連赤)だった。

 長谷川氏は「『連赤』を最初に映画にしようと言い出したのは俺なんだよ。(1972年2月のあさま山荘)事件の直後から。その後、(高橋)伴明がまず『光の雨』(01年)を撮って、原田眞人も…(02年『突入せよ!あさま山荘事件』)。若ちゃん(若松孝二監督)は『ゴジ(※長谷川氏の愛称)が撮る撮る言って撮らないから、俺が撮っちゃったよ』って(08年『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』)」と言及した。

 このテーマにこだわった背景として「学生運動が激しかった1968年に(助監督を務めた映画)『神々の深き欲望』(今村昌平監督)で半年ぐらい沖縄にいたんだよ。その後、東大の安田講堂(69年1月、全共闘の学生らによる占拠)を(吉永小百合主演『キューポラのある街』などで知られる名匠)浦山桐郎監督と一緒に(撮影者の立場で)カメラを回しながら、『俺もここの学生だったんだよな』『俺はやっぱり大事な時にいなかったんだな』とか思っていた」と回想。東大生時代に当事者として闘争に加われなかった“やり残した感"が映画監督としての表現に“けじめ”としてつながっていたのではないか…と感じた。

 「連赤」のシナリオも「10何年も前から書いていた」と明かし、「『これでいいのか』という疑問文・クエスチョンも込みで400ページ(以上)」と付け加えた。さらに視聴者に向け「フェイスブックに友達申請でつながってメッセンジャーでやりとりして電話番号も交換しよう。シナリオを送るから、読んだ上で感想と意見、キャスティングのイメージを聞かせて欲しい。より多くの人に感想を聞いて『ドキドキ・わくわく』できる、自分が本当に面白いと思うものを作りたい。だから平身低頭してお願いしたい。俺がここまで言うのはかなり本気だよ。本当は焦ってるんだ。マジで。意見、お願いします」と訴えた。

 同氏の発言から「残り時間は少ない」という切迫感が伝わった。「俺が撮る映画、観たいか?」。長谷川氏が問いかけると、会場から一斉に拍手が起きた。そして当時、「人間で言えば100歳以上」という22歳の愛猫「タマ」への思いを映画に重ねた。「タマが死ぬ前に映画を撮らなきゃいけない。間違いなく俺より先に死ぬんだよ。だから早く撮らなきゃいけないんだよ」。コワモテの監督から飛び出した猫への愛情と映画への切実な思い。その姿自体が「新作映画を撮れない巨匠監督」のドキュメンタリーだった。

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