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破天荒な男・快楽亭ブラックを描く映画「落語家の業」公開、監督が明かす裏話、ゲストに立川志らくも登壇

北村 泰介 北村 泰介
星条旗柄の着物姿で高座に上がる落語家・快楽亭ブラック。その破天荒な生き様がドキュメンタリー映画となった
星条旗柄の着物姿で高座に上がる落語家・快楽亭ブラック。その破天荒な生き様がドキュメンタリー映画となった

 異端の落語家・快楽亭ブラック(73)の破天荒な生き様を描いたドキュメンタリー映画「落語家の業(ごう)」が13日から東京・渋谷のユーロスペースを皮切りに全国順次公開される。芸歴56年、波乱万丈の人生を貴重な映像で伝える新作について、榎園喬介監督に話を聞いた。(文中一部敬称略)

 ブラックは1952年、米軍兵士と日本人女性との間に東京で生まれ育った。本名は福田秀文。その出自による差別から逃れるため、幼少期から映画館の闇に身を沈めていたという。そのライフスタイルは古希を過ぎた現在も不変。旧作邦画を上映する映画館では頻繁にその姿が目撃される。歌舞伎にも造詣が深く、劇場に足繁く通う。本業の落語は社会的にタブーとされるネタを題材とし、〝コンプライアンスの超越者〟とも称される。テレビではまずお目にかかれない芸人の1人だ。

 69年、堀越高校を中退して立川談志(2011年死去、享年75)に入門。前座で立川ワシントンと名乗り、日本テレビ系の青春ドラマ「おれは男だ! 」(71年)で名優・笠智衆を相手に剣道に打ち込む外国人青年役に抜てきされるなど、その容姿から注目される存在だったが、師匠から預かった預金通帳の金を競馬に使い込んだことが発覚して72年に破門され、大阪へ。桂三枝(現・文枝)門下となり、桂サンQなどと名乗る。79年に談志門下に復帰。92年には、明治・大正期に活動した英国人落語家の初代以来となる二代目・快楽亭ブラックを襲名して落語立川流の真打に昇進も、05年に金銭問題から自主退会。この20年間はフリーとして活動している。

 本作タイトルの「業」は、談志の「落語とは、人間の業の肯定である」という言葉から引用。世間の良識から外れていても、その人物の「どうしようもなさ」を受け入れて笑いに昇華する落語の在り方を示す。

 「業とは生き様…でしょうか」。そう語る榎園氏が撮影を始めたのは平成最後の日となる19年4月30日。〝引きこもり〟の人たちと接していた同氏は当初、「社会不適合者の主戦場としての落語界」という視点で、ブラックを軸にしつつ、その弟子や他の落語家も撮ったが、翌年のコロナ禍で公開が延期に。緊急事態宣言によって落語会が開催できず、ブラックが生き抜くために、榎園氏も落語の生配信を手伝ったところ、その内容を弟子にとがめられて裁判に発展。榎園氏も共犯として訴えられながら、裁判の様子も撮影して新たな作品を作り直した。

  そうして完成し、今年の大ヒット映画をもじって「黒宝」ドキュメンタリーと銘打たれた本作には3件のヤマ場がある。

 (1)人生の転機となった05年。6月に落語立川流を事実上の除名となり、10月にはTBSラジオの番組出演後に倒れ、心筋梗塞及び急性大動脈解離の緊急手術によって九死に一生を得る。同年の映像は伝統芸能に造詣の深いライター・九龍ジョー氏が提供した。

 (2)14年2月、拠点としていた名古屋の大須演芸場が家賃滞納のため強制執行で閉場に。ブラックが口演中、「中止」を伝えるべく入場した執行官に対し、観客が「待ってました!」のかけ声と満場の拍手で迎えるシーンが落語家・鈴々舎馬るこによって撮影されていた。ブラックは観客と事前に打ち合わせしてシャレにならない状況を笑いにする一方、「正義は向こう(執行官)にありますから」という客観的な視点も示す確信犯的なヒールぶりも活写された。

 (3)20年、YouTubeでブラックが弟子の交際女性をネタにしたところ、名誉毀損で訴えられて裁判に。「被告福田」として東京地裁に足を運んだ。30万円の慰謝料支払いを命じられたブラックは、なけなしの31万円余りを全て競馬の有馬記念(21年)で「エフフォーリア」の単勝につぎ込んで勝利。「落語の神が付いていた」とオチを付ける。

  榎園監督は「こうした人生のドラマチックな場面において、周囲にいた者が撮った映像が残されていた。ブラック師匠は『70年間、映画を見続けたあっしへの映画の神様がくれた贈り物』とコメントしていて、この一言に尽きると思います。日本の伝統芸能の中に『二代目快楽亭ブラックという落語家がいた』ということ。その一代記を後世に残したい」と力を込めた。

   公開後は連日、ゆかりのゲストを迎える。2日目の14日には談志門下の弟弟子である立川志らくが登壇し、榎園氏を相手にトーク予定。志らくは若き日に「〝超〟放送禁止落語会」というアンダーグラウンドな会にブラック(当時・立川平成)らと出演していた縁がある。地上波テレビの〝ご意見番〟となった今、何を語るかも注目される。

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