フリーランスのデザイナーとして独立した男性は、ある悩みを抱えていた。長年の付き合いのあるクライアントからの支払いが確認できなかったのだ。これまで一度も支払いが遅れたことのなかったにもかかわらず、今回は支払期日を1カ月過ぎても入金がない。
さすがに不安になり、経理担当者に確認しても「確認してすぐに振り込みます」という返信があった。しかしそれから2週間経っても入金はなし。このような場合、男性はどのような行動をとるべきだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー入金がない場合、最初の確認はどのタイミングで行うのが望ましいですか
まずは支払期日の翌日、あるいは翌々日には連絡を入れるべきです。「事務的なミスの可能性」という前提で、柔らかいトーンでメールを送るのが良いでしょう。「入金の確認が取れていないのですが、振込手続きはお済みでしょうか?」といった具合です。
電話よりも、まずは履歴が残るメールを使い、相手に言い逃れの余地を与えないことが重要です。
ー電話やメールで進展がない場合、次に取るべき行動は?
もし現在進行形でその会社から請け負っている仕事がある場合、直ちに作業を中断してください。「これ以上被害を拡大させない」という意思表示になります。
その上で、もし可能であれば相手のオフィスへ直接出向くことも有効です。居留守が使われている場合でも、来訪の事実はプレッシャーになります。それでも反応がなければ、法的手段の前段階へと移行します。
ー「内容証明郵便」とは、どのようなもので、どう送ればよいですか?
内容証明郵便とは、「いつ、誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったか」を日本郵便が証明してくれるサービスです。これ自体に法的強制力はありませんが、「本気で回収するつもりがある」という強い警告になりますし、将来的に裁判になった際の証拠となります。
郵便局の窓口や、現在はインターネットからでも発送可能です。「期日までに支払いがなければ法的措置を取る」と明記し、相手に心理的圧力をかけるのが目的です。
ーそれでも支払いがない場合、どのような法的手段がありますか?
比較的簡易な手続きとして「支払督促」があります。裁判所を介して相手に支払いを命じてもらう制度で、書類審査のみで行えるため、費用も安く済みます。相手が異議を申し立てなければ、強制執行(差し押さえ)の権利が得られます。
また、未払い額が60万円以下であれば「少額訴訟」という、原則1回の審理で判決が出る制度も利用可能です。ただし、いずれの手段も費用がかかってしまうので、専門家の意見を聞いた上で、どの方法を選ぶかを決めたほうがいいでしょう。
●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。