ある学生は、部員30名のサークルの部長を担い、アルバイトでもバイトリーダーとして新人アルバイトの教育やシフト調整も任されていた。就職活動で語るべき「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」には、絶対の自信を持っている。
しかし、実際に始まった就職活動での面接では、その自信は脆くも崩れ去った。彼が「部長としてチームをまとめ、目標を達成しました」と胸を張って語っても、面接官の表情は変わらない。そして返ってきた返事は「それで具体的に“あなた”は何を課題だと感じ、どう解決しようと考えたのですか?」という鋭い問いだった。
なぜ「部長」や「リーダー」という経験が、それだけでは響かないのか。キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を伺った。
―リーダーの経験が、採用担当者に伝わりにくいのはなぜですか?
経験そのものは貴重です。ただ、「バイトリーダーをやっていました」という事実だけでは、あなたの能力は伝わりません。企業が知りたいのは、肩書きそのものではなく、その経験を通した「主体的」、「コミュニケーション能力」、「課題解決能力」といった、入社後に活躍できるポテンシャルです。
―企業が知りたい「具体的なエピソード」とは?
エントリーシートや面接で、「学生時代に力を入れたこと」や「どのような困難に直面し、どう乗り越えたか」などがよく聞かれますが、企業が知りたいのは単なる過去の出来事ではなく、「なぜその行動を選んだのか」といった、行動に至るまでの考え方、つまり「思考のプロセス」です。
「思考のプロセス」には、物事の捉え方や考え方といった、「その人らしさ」が表れます。また、「どのように課題を見つけ、考え、行動し、結果を出したか」という一連の過程は、入社後の未知の業務でも応用できる可能性が高い「再現性のある能力」とも言えるからです。
―経験を「魅力的なストーリー」にするには?
まず、経験を徹底的に「棚卸し」しましょう。背景、状況、自分の役割、考えたこと、具体的な行動、結果まで、全て書き出してください。
文章にするときは、単なる事実の列挙ではなく、「思考のプロセス」を表現することを意識してください。PREP法やSTAR法という枠組みはありますが、文字数が限られるエントリーシートでは、枠組みを意識しつつ、「結論(私の強みは〇〇です)」と「理由(それを裏付ける具体的なエピソード)」という構成が効果的です。
―学生が陥りがちな「NGな伝え方」は?
大きく2つあります。一つは「抽象的すぎる」パターンです。「コミュニケーション能力を活かして頑張りました」といった表現では、具体的に「どう」頑張ったのかが分かりません。
もう一つは「要点を絞れない」パターンです。経験を事細かく伝えようとすると話が冗長になり、結局何を伝えたいのか分からなくなります。
面接官の視点に立ち、「何を伝えたら自分を理解してもらえるか」を冷静に整理しましょう。
あなたが経験してきたことには、小さなことであれ必ず価値があります。大切なのは、経験を単なる事実としてではなく、「どう考え、何を想って行動したのか」という「思考のプロセス」を盛り込んで表現すること。ここに企業の知りたい情報があるのです。
◆七野綾音(しちのあやね)キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント
やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう!働くのって面白そう!」と子ども達が思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。