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発見された手塚治虫〝幻のネーム〟収録書籍が出版「貴重な画稿、作家としてのすごさ」低迷期に励んだ試作

北村 泰介 北村 泰介
遭難死した兄の謎を追う青年の物語を描いた手塚治虫の未発表ネーム①「無題」(C)手塚プロダクション
遭難死した兄の謎を追う青年の物語を描いた手塚治虫の未発表ネーム①「無題」(C)手塚プロダクション

 漫画界の巨匠・手塚治虫(1928〜89年)による未発表「ネーム」3作品などを収録した書籍「手塚治虫ミッシング・ピーシズ」(立東舎、税込7700円)が14日に発売される。ネームとは、ペン入れする前段階での鉛筆による下描きのこと。漫画文化史における貴重な資料が未完成のまま〝作品〟として読者に提示され、共有されるという画期的な出版となる。(文中一部敬称略)

 手塚プロダクションによると、今年6月、スタッフが資料の整理中、描き損じなどが入った2つの段ボール箱の中から未発表作品のネームが発見されたという。

 鉛筆でラフに描かれた漫画のコマは、通常なら完成品としてしかお目にかかる機会のない一般読者にとって新鮮な驚きや新たな発見がある。一見、走り描きのようなラフなタッチに、作者の息づかいが感じられ、〝完璧な作品〟ではないがゆえに、子ども時代に漫画の〝真似事〟であってもペンを走らせた記憶のある人にとっては、その筆致にどこか親近感を覚えるのではないだろうか。

 アンソロジスト(編集者)・濱田髙志氏による本書の「解題」によると、ネーム3作のうち2作は存在が知られていなかった作品で、1つは「スイスのアイガー北壁で遭難死した兄の謎を追う青年の物語(28ページ分)」、もう1本は「高性能コンピューターに育てられた男児がヒョウのような野生児に生まれ変わるSFタッチの作品(27ページ分)」。いずれも73年頃の作品とみられ、無題だが、キャラクターやセリフが詳しく描かれている。

 残る1本は44ページ分あり、登場人物が75年5月に「週刊少年ジャンプ」で発表された読み切り短編「低俗天使」と同じであることから、同作の初期稿と想定される。参考作品として実際に掲載された同作の完成品も本書に併載された。

 先の「無題」2作が描かれたと推定される73年当時、手塚は45歳。少年漫画誌でヒット作が出ない〝スランプ期〟にあったとされ、青年誌などでの大人に向けた作品への方向性を模索していた。さらに版権管理と出版を担っていた「虫プロ商事」とアニメ制作会社「虫プロダクション」が相次いで倒産するという人生最大の苦境にあったという。濱田氏は「そんな境遇においても手塚は創作意欲を失うことなく、こうした試作に励んでいたのだと考えられます」と指摘した。

 〝漫画の神様〟といえども直面した低迷期だったが、こうした不断の努力を経て脱出する。手塚は「週刊少年チャンピオン」からのオファーを受け、同年11月から「ブラック・ジャック」の連載を開始。後世にまで残るヒット作となり、その健在ぶりを世に示した。

 立東舎では、これまで単行本に収録されなかったシーンの雑誌連載時バージョンなどを編集した「ミッシング・ピーシズ」」シリーズとして、手塚作品では「ブラック・ジャック」「三つ目がとおる」「火の鳥」「リボンの騎士」と著名な4作品を刊行してきたが、新刊では未発表ネームのほか、レア作「マンションOBA」の初出版原稿、「きりひと讃歌」「MW」「七色いんこ」「陽だまりの樹」「火の鳥(太陽編)」などの未発表原稿も掲載されている。

 今回の「未発表作品ネーム・原稿拾遺集」という切り口について、同社編集部は「11月は手塚先生の誕生月(※11月3日生まれ)ということで、なにかスペシャルな刊行物を出版できたらと考えておりました。そうした中で、作品名ではなく著者名を冠した『ミッシング・ピーシズ』シリーズの新作という企画が立ち上がりました。そうすると、『作品縛り』では掲載できなかった貴重な画稿をまとめて読者の方々に見ていただける。いろいろな作品の創作の過程を提示することで、手塚治虫という作家のすごさをより実感していただける、と考えました」と説明している。

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