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父の遺品から「借用書」…回収の見込みがない友人への貸付金に相続税はかかる?【税理士が解説】

夢書房 夢書房

ある男性が父親の遺品を整理していると、古くからの友人宛ての借用書が見つかった。返済の形跡はなく、男性がその友人に督促しても芳しい返事は得られない。このような回収の見込みが立たない貸付金にも、相続税が課されるのだろうか。正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞いた。

ー回収できていない貸付金にも相続税がかかるのですか

回収できていない貸付金も相続税の課税対象となるのが原則です。 被相続人(亡くなった方)が誰かにお金を貸していた場合、そのお金を返してもらう権利(貸付金債権)は相続財産に含まれるからです。

たとえ返済が滞っていたとしても、法的にその権利が消滅したわけではないため、財産として評価され、相続税の計算に含めなければならないのです。

相続税の申告と納税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。 この期限は、貸付金の返済状況や返済期日とは無関係であるためご注意ください。

ー貸付金の相続財産としての「評価額」は、どのように決まるのですか

貸付金の相続財産としての評価額は、原則として「元本の価額」と「利息の価額」の合計額となります。 具体的には、返済されるべき元本の金額と、相続開始時点までに発生した未払いの利息(既経過利息)を合算した金額が、その貸付金の評価額となるのです。

例えば、元本1,000万円、利息が50万円発生している場合、評価額は1,050万円となります。この評価額を他の相続財産と合算し、相続税が計算されます。

ー回収が明らかに不可能な場合、評価額を減額してもらうことはできますか

貸付金の相手方が破産している、会社更生手続きの開始が決定しているなど、法的な事実によって回収が不可能と判断される場合、その回収不能額を元本の価額に算入しないこととされています。

そのような法的な事実がない場合でも、「その他その回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるとき」には、評価額を減額できる可能性があります。 これを実質的な回収不能といい、例えば、貸付先の資産状況、営業状況などから、客観的にみて事業経営が破綻していることが明らかな場合などが該当します。

ただし、単に「返してくれそうにない」といった主観的な理由だけでは認められません。客観的な証拠をもって、回収が著しく困難であることを税務署に説明する必要があります。

ーお金を貸す際に親が生前にしておくべきことは何でしたか

このような事態を避けるために、生前にできる対策はいくつか考えられます。

まず最も重要なのは、金銭消費貸借契約書などの書面を必ず作成しておくことです。口約束での貸し借りは、相続発生後に貸付金の存在自体を証明することが難しくなります。契約書には、貸主、借主、貸付日、金額、返済期限、利息などを明確に記載しておくべきです。

その上で、回収が難しいと判断した場合には、生前に債権放棄を行うという選択肢もあります。 債権放棄をすれば、その貸付金は相続財産ではなくなるため、相続税の対象から外れます。ただし、債務者(お金を借りた側)に贈与税が課される可能性があるため、注意が必要です。

いずれにせよ、個人間の金銭の貸し借りは、将来の相続を見据えた上で、慎重に行う必要があります。そして、万が一、相続財産の中に回収困難な貸付金が見つかった場合は、その評価方法や手続きについて、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士 10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。

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