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クマに襲われた人はどのように生還したのか?「ヒジが鼻に…」当事者の証言が書籍に、命を守る防御姿勢は?

北村 泰介 北村 泰介
子グマを先導して行動する母グマ。人間に遭遇すると子を守る本能から攻撃的になる可能性もあるという(「ドキュメント クマから逃げのびた人々」より)
子グマを先導して行動する母グマ。人間に遭遇すると子を守る本能から攻撃的になる可能性もあるという(「ドキュメント クマから逃げのびた人々」より)

 今夏以降、クマによる襲撃で人が死亡した事件が相次いている。10月も岩手県北上市などで被害者とみられる遺体が発見されている。クマ被害への危機感が高まる中、過去の事例を当事者の証言でまとめた「ドキュメント クマから逃げのびた人々」(三才ブックス、税込1980円)が出版された。担当編集者に話を聞いた。

 本書にはクマの襲撃から生き延びた8ケースが収録されている。

 「きのこ採りの最中、子連れ母グマに襲われ…」(2023年9月28日、岩手県岩泉町)、「畑で作業中に顔面を引っかかれて右目を失明」(23年6月16日、島根県邑南町)、「背後からの不意打ちで頭部から大流血」(22年9月上旬、群馬県沼田市)、「ヒグマと格闘中、繰り出した右拳がクマの口中に」(22年7月、北海道滝上町)、「市街地の地下鉄駅そばでまさかの襲撃」(21年6月18日、札幌市)、「キャンプ場で深夜にテントごと引きずられ…」(20年8月8日、長野県松本市安曇上高地)、「血まみれで命がけの戦い」(1992年10月7日、秋田市)…。それぞれの遭遇状況や心理状態、ケガやPTSDの後遺症などについて証言されている。

 クマに攻撃された際に「防御姿勢」を取った一例もある。

 2006年10月16日、群馬県沼田市秋塚町でリンゴ栽培をする当時58歳の男性が畑で作業中、突進してきた体長2メートルほどのツキノワグマに顔面を爪でえぐられ、ほとばしった鮮血が目に入り、視界が真っ赤になった。そのまま押し倒されたが、男性は両腕で頭を覆って防御。頭をかじられ、唇を食いちぎられ、鼻は皮一枚でつながる状況も、もみあううちに偶然、右ヒジが弱点とみられる鼻に当たり、クマは逃げていったという。男性は10時間以上の大手術を含む計4回の手術を経て生き延びた。

 本書では東京農業大学、秋田大学、北海道大学の教授が解説。襲撃時は「地面に伏せて両手で(大量出血につながる)首を守る防御姿勢を取ることが肝要」と説いた。クマは元来、「臆病な生き物」だが、6~7月の繁殖期に発情した雄が雌を探して徘徊する時や、冬眠中に出産した雌が子グマを連れて歩く際などに遭遇した人間を防衛本能から攻撃するケースなどを分析。人とクマが共存する「緩衝地域」への専門家配置の重要性などを指摘した。

 クマにとって秋は11~12月から始まる冬眠に向けた飽食期。栄養源となるドングリが今年は凶作となるなど、人間の生活圏に食べ物を求めて出没するケースが増えている。

 こうしたタイミングで世に出た書籍を担当したスタッフの1人で、編集プロダクション「風来堂」の今田壮氏は「被害が多い一方で、決定的な対処法がないのがクマ。『こうすれば大丈夫』とはなかなか言えないので、それならば『ケーススタディ集』を作ろうというのが本書の意図です。衝撃的なエピソードばかりですが、決して恐怖話的な出し方ではなく、あくまで実話に学ぶケーススタディとしています。今回は8例のみでしたが、1人1人にかなりのページ数を割いています」と説明した。

 さらに、同氏は「3年前に制作した『日本クマ事件簿』では死亡事例ばかりを取り上げましたが、生死を分けるギリギリの場面で人間がどう行動するのかは被害者が死亡した事例では分からなかった、その点について本書で多少は明らかにできたのではないかと思います」と付け加えた。

 クマ被害報道についても、今田氏は「『ヒグマは怖いが、ツキノワグマはそうでもない』『ほとんどのクマが人=エサと認識している』といった、事実に基づかずに恐怖をあおる報道も見られます。本書では被害を受けた場所の地図を載せ、なるべく正確な情報を伝えるよう意識しています。クマは確かに怖い。でも『正しく怖れる』ことが重要だと思います」と言及した。

 今泉慎一の筆名で国内700か所以上の山城をルポした書籍の著者でもある今田氏。「幸いにしてこれまでクマに遭遇したことはありませんが、クマ鈴は必携。高い音がより長く響くものを使用しています。クマは縄張りの生き物。過去にたびたび目撃情報があったため、行くのを諦めた山城も。直近の出没情報を公開している都道府県も多くなっているので事前情報はそれらで収集しています」と明かした。

 続編も構想中。今田氏は「事件直後の一過性の報道では伝わらない、じっくりお話を聞いてこそ分かる取材記事の制作を続けたいと考えています。『今後の被害防止に役に立つなら話してもよい』という方がおられたら、ぜひご連絡いただきたいです」と呼び掛けた。

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