akiya_b

パートナーシップ制度では相続権を得られない?同性カップルがやっておくべき法的対策とは【行政書士が解説】

夢書房 夢書房

地元の自治体でパートナーシップ宣誓制度が導入され、証明書を手に「これで私たちも公に認められた家族だ」と喜び合う同姓カップル。しかしその安心感は、法的な現実の前にもろくも崩れ去ることがある。

20年以上共に生きた同性パートナーを事故で失った男性のもとに、疎遠だった故人の兄が現れる。「弟の財産は、法律上の相続人である私がすべて相続する。あなたは赤の他人だ」と言われてしまい、パートナーシップの証明書も「法的な意味はない」と一蹴された。

このような状況にならないようにするためには、同性カップルはどのように相続対策すべきなのだろうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞いた。

ー「パートナーシップ宣誓制度」と「婚姻」の決定的な違いは何ですか

パートナーシップ宣誓制度は、同性カップルを公的に承認し、行政サービスや社会的配慮を受けやすくするための重要な一歩です。ただし、この制度と法律上の「婚姻」との間には、相続において越えられない壁が存在します。

現在の日本の法律では、亡くなった人の財産を相続できる「法定相続人」は、配偶者、子、直系尊属(父母など)、兄弟姉妹と定められています。ここでいう「配偶者」とは、法律上の婚姻関係にある者を指します。同性婚が法的に認められていない日本では、パートナーシップの宣誓を行っていても、法律上の配偶者とはならず、法定相続人になることはできません。

ーパートナーシップの証明書は、相続手続きにおいて何らかの効力を持ちますか

相続手続きにおいて、パートナーシップの証明書は、残念ながら、現状では法的な効力はほとんどないと言わざるを得ません。この証明書は、二人の関係性を公的に示すものではあっても、民法上の相続権を覆す力は持たないからです。したがって、故人の親族が相続権を主張した場合、法的にはその主張が優先されてしまうのが現実です。

ー遺言書を遺さずに亡くなった場合、遺された側に法的な権利はないのでしょうか

法定相続人が一人もいない場合に限り、「特別縁故者」として家庭裁判所に申し立て、財産の分与を求める道があります。長年連れ添い、生計を同一にしていたパートナーは、特別縁故者として認められる可能性はあります。ただし、あくまで相続人が不存在の場合の相続財産清算過程における制度であり、手続きも簡単ではありません。

ー同性カップルが生前に必ずしておくべき法的対策は何ですか

最も一般的な対策が、「遺言書」の作成です。パートナーに全財産を遺贈する、あるいは特定の財産を遺贈するといった内容を記すことで、法定相続人よりも遺言の内容が優先されます。

法的な親子関係を結ぶ「養子縁組」も、一つの選択肢です。養子になれば、法律上の子として法定相続人となり、相続権が生じます。また、「私が死んだら、この財産をあなたに贈与します」という「死因贈与契約」を生前に結んだり、生命保険の死亡保険金受取人をパートナーに指定したりするのも有効です。ただし、生命保険では、保険会社による引受審査をパスする必要があります。

現状のパートナーシップ制度だけでは、愛する人の人生と築き上げてきた財産を守ることはできません。専門家に相談するなどして、法的に対策を講じておくことをおすすめします。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士

長崎県諫早市出身。前職の信託銀行時代に担当した1,000件以上の遺言・相続手続き、ならびに3,000件以上の相談の経験を活かし大阪府茨木市にて開業。北摂パートナーズ行政書士事務所を2022年に開所し、遺言・相続手続きのスペシャリストとして活動中。ペットの相続問題や後進の指導にも力を入れている。

よろず〜の求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース