叱咤激励の意味で使った「尻を叩く」という慣用句の意味が相手に通じず、文字通りに受け止められて「ハラスメント」発言として問題視された…。そんな笑い話にもならない出来事が生じた場合、どのように対応すればいいだろうか。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏がトラブル回避の対策を提言した。
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【今回のピンチ】
部下に「メンバーの尻を叩くのもリーダーの仕事だぞ」と言ったら、目を見開いて「セクハラを推奨するなんて信じられない。相談窓口に報告します」と言い出した……。
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若い部下たちが進めているプロジェクト。どうやらメンバーの熱量に差があるなどして、うまく回っていないようです。
助け舟を出してやるかと思って、リーダー役を務めている男性の部下に「上手にメンバーの尻を叩くのもリーダーの仕事だぞ」とアドバイス。ところが、何を勘違いしたのか、目を見開いて「セクハラを推奨するなんて、そんな人とは思いませんでした!社内の相談窓口に報告します」と言い出しました。
普段からちょっとズレたヤツだと思っていましたが、まさかこれほどとは……。自分に非はないとはいえ、話を盛って報告されたら、面倒なことになりかねません。マヌケな部下をどうなだめればいいのか。
ここでビビッて「申し訳ない。そんなつもりじゃないんだ。報告しないでくれ」などと、下手に出て謝るのは逆効果。そいつは勝ち誇った気分になって、自分の勘違いにますます確信を深めるでしょう。
「バカ、もっと日本語を勉強しろ!」と叱責したら、今度は「バカ」という言葉に反応して、パワハラ扱いしてきそうです。言うまでもありませんが、「まだまだ尻が青いな」と尻つながりの慣用句で苦言を呈しても、まず通じないでしょう。「いつ見たんですか!」と、さらに激しく騒ぎ出しそうです。
ここは、うろたえるでも怒るでもなく、デンと構えて笑ってしまうのがベスト。まずは「ハハハ、〇〇君は面白いね」と言って、相手をキョトンとさせましょう。その上で「もちろん、『尻を叩く』っていう慣用句が『励ます』とか『行動を促す』という意味なのは、よくわかってるんだろうけど、セクハラときたか。ハハハ」と、意味を解説します。
相手が知っている前提でわざわざ解説するのは、自分の勘違いに気づかせて、シレッと「そうなんです。冗談です」という顔をして引き下がれるようにするため。追い詰めるよりも逃げ道を残してあげることで、不当な攻撃から結果的に自分を守ることができます。
首尾よくピンチをかわしたら、こんなヤツがリーダーをしているという、プロジェクトにとっての深刻なピンチもどうにかしたいところ。そこはきっちり対処しましょう。
それはそれとして、世の中全体が「コンプラ違反過敏症」になっている昨今、慣用句といえども「尻を叩く」という言葉を口にすると、周囲をギョッとさせかねません。「尻に火が付く」「尻馬に乗る」「尻をまくる」なども同様です。
世知辛い風潮に一石を投じるために、チャンスを見つけて、尻がらみの慣用句を積極的に使ってみるのも一興かも。少なくとも自分自身は、いちいち誰かの言葉尻を捕らえるのではなく、なるべく目尻を下げてユルユルと生きていきたいものです。