TBS系「ウルトラマン」(19666~67年放送)に登場する科学特捜隊のフジ・アキコ役など、円谷プロダクション制作による特撮テレビドラマの〝レジェンド〟の1人となった女優・桜井浩子の著書「ヒロインの追憶 ウルトラの絆」(立東舎)が19日に発売された。桜井がよろず~ニュースの取材に対し、新刊に込めた思いを語った。
大先輩の〝遺言〟がモチベーションになった。「桜井くん、ウルトラの歴史を活字にして残しておくと良いですよ」。ウルトラマンの代表的なキャラクター「バルタン星人」の〝生みの親〟飯島敏宏監督の言葉だ。そばにいた脚本家の上原正三氏も真剣な表情で真っ直ぐに桜井を見つめた。上原氏は2020年に82歳で、飯島氏は21年に89歳で死去した。
桜井は「人が亡くなると魂に響くので、言われたことが残るんですよ。『君の見た目で活字にしときなさい』と。お二人が相次いで亡くなられたことで、その言葉が浮かび上がった。監督たちが地球に残した思いは本人じゃないと伝えられないけど、私なりに内蔵しているもので何かを残せればと、自分で書かせていただきました。もっと表現力があったらなぁ…なんて思いつつ、周囲の皆さんに助けていただき、一冊の本になって良かったです」と感慨に浸った。
著書は94年の「ウルトラマン青春記-フジ隊員の929日」(小学館)を皮切りに今回で6冊目。昨年の前著「『ウルトラQ』『ウルトラマン』全67作撮影秘話: ヒロインの記憶」(アルテスパブリッシング刊)では触れなかった15作40話を取り上げた。
表紙を飾った桜井のシュールな写真は「怪奇大作戦」第4話「恐怖の電話」(68年)に登場する「無響室」のシーン。「快獣ブースカ」(67年)、悪役を初体験した「ミラーマン」(72年)、二谷英明さんのダンディーな魅力に触れた「マイティジャック」(68年)、伝説のコメディドラマ「独身のスキャット」(70年)…といった〝ウルトラ以外〟の作品の舞台裏も活写した。
ウルトラマンシリーズではゲスト出演した「ウルトラマンレオ」(74年)や「ウルトラマン80」(80年)、映画「ウルトラマンゼアス」(96年)などに加え、05~06年に放送された準レギュラー作「ウルトラマンマックス」(23本分)を詳細に記した。
「2003年頃から円谷プロのコーディネーターとなり、女優との〝二足のわらじ〟で忙しかったですけど、面白かったです。今も女性スタッフたちの相談に乗ったり、ドキュメンタリー番組などのアテンドをしたり。フジ・アキコとして海外に呼ばれることもあり、今年7月にはシカゴでイベントをやって大盛況だったのがうれしかったですね。監督たちのところ(天国)に行った時に堂々と『やりました!』って言えるなと(笑)」
「ウルトラマン」の放送開始時は20歳。円谷プロの初代社長・円谷英二氏(70年死去、享年68)、2代目社長の円谷一(はじめ)氏(73年死去、享年41)と接した若き日の思い出は「ロコ」と呼ばれた当時の愛称と共にある。
「円谷一さんに『ヒロコだから〝ロコ〟って呼ぶね』と言われ、円谷プロではスタッフや共演者に『ロコ』と呼ばれることでチームワークの中にいる気持ちになりました。飯島監督も『ロコ』と言っていたんですけど、私に『コーディネーターやりなさい』と言われてから『桜井君』になり、晩年は『桜井さん』になって、私も『なんだい?』みたいな(笑)」
映像作品も配信の時代。昨年、円谷プロとNetflixの共同制作で世界配信されたウルトラマンのCG長編アニメ映画「Ultraman:Rising」では吹き替えの声優を務めた。
「主人公の恋人の母親役です。しかも、英語の作品ですから、ものすごく難しい。最初は悩みましたけど、英二監督の『チャレンジだぞ』という、脳裏に焼き付いていた言葉がよみがえったんです。『ウルトラマンを怒れる人は桜井さんしかいない』と周りにも言われて…。『ちゃんとしなさい、ウルトラマン!』という私のセリフから『ウルトラマン』の所だけ予告編に使ったら、見た人がすぐ声で分かったようです。コーディネーターとして、こうしたキャスティングの仕方は勉強になりましたね」
さらなる続編にも意欲を示す。「サブタイトル『ウルトラの絆』のように、みんなつながっていて、魂は残っていますから。また、時間を置いて活字にしていきたい。でも、今は書き上げたところですので、これ以上は無理っす!」。気さくな笑顔で、つぶらな瞳を輝かせた。