今年も時代を彩った多くの人気者が世を去りました。サブカル界でも声優、漫画家、歌手たちの訃報が伝えられる度、驚きと悲しみ、そしてその功績がたたえられました。今年10月に72歳で死去した木村昇さんもその一人だと考えます。
木村さんはロックバンド「TALIZMAN」のボーカルとして、人気特撮シリーズ「ウルトラマン80」の主題歌「ウルトラマン80」を歌唱。HARRYの名義でアニソン屈指の名曲と名高い「未来警察ウラシマン」主題歌「MIDNIGHT SUBMARINE」を、ハーリー木村としては特撮「宇宙刑事ギャバン」の挿入歌「青い地球は母の星」を、本名でもアニメ「ルパン三世」(テレビ第2シリーズ)のエンディング曲「LOVE IS EVERYTHING」で大人の色香を漂わせ、伸びやかな歌声を響かせました。
木村さんのX(旧ツイッター)を通して、関係者から訃報が伝えられたのですが、その実像はそれほど語られていないように感じます。木村さんは多くの楽曲に携わる一方、1983年で芸能活動を休止。2016年に30年以上の沈黙を破り音楽活動を再開しました。
このほど、2018年に木村さんを取材したものの、出版側の都合でお蔵入りとなった記事が寄稿されました。昭和をモチーフとしたイベント、アニソンライブを手がけ、伝説のアニメソングシンガー、ヒデ夕樹(ひで・ゆうき、1940-1998年)の生涯に迫った著書「ヒデ夕樹とテレビまんが主題歌の黄金期」を持つ剣持光さんによる記事です。
しかし、当サイトが改めて関係者に取材したところ、事実確認が難しい箇所があり、そのままの掲載は難しい状況でした。剣持さんの了承を得た上で、当サイトで再編集を行いました。木村さんの足跡、言葉を伝えたい思いを、ご理解いただければ幸いです。
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木村昇(きむら・のぼる)は1952年5月14日、兵庫県姫路市生まれ。27歳でロックバンドTALIZMAN(タリスマン)を結成し、ボーカルとしてテレビCM、アニメなどのタイアップソングを主に歌った。脱退後はハーリー木村、HARRYという芸名でも活躍したが、31歳で芸能界を引退。16年から宮城県仙台市を拠点に歌手活動を再開させた。
代表曲に「ウルトラマン80」(1980年、同名テレビ映画主題歌)、「LOVE IS EVERYTHING」(1980年、テレビアニメ『ルパン三世(第2シリーズ)』エンディング主題歌)、「テクノボイジャー」(1982年、テレビアニメ『科学救助隊テクノボイジャー』主題歌)、「ミッドナイト・サブマリン」(1983年、テレビアニメ『未来警察ウラシマン』主題歌)がある。
◆はじまり
幼少の頃を回顧して、木村昇はこう語った。
「叔父がジャズのギタリストだったんですが、その叔父に可愛がられましてね。小学校に上がる前から、どこに行くのも一緒でした。その頃からジャズクラブにも出入りしていたんです。そんなある日、店の隅っこにパーカッションが置いてあるのを見かけた。それで、叔父にお前も叩いてみろといわれて、見よう見まねで叩くようになって……。それが楽器に興味を持つようになったきっかけです」
中学校に進学しブラスバンド部に入部すると、音楽熱に拍車がかかった。木村はサックスを得意としたが、ほかにもクラリネット、トランペット、ティンパニー、ドラムなどあらゆる楽器をこなすようになっていった。
何かと頼りにされるようになると、ますますおもしろくて仕方がない。木村は顧問の教師にも信頼され、演奏会の選曲も任されるようになる。
「学校で与えられる譜面はどれもありきたりのものばかりなんです。そこで、ぼくが自分のセンスで恰好いいと思う曲の楽譜を買ってきて、楽譜を各楽器のパート用に書き起こしてそれを部員に配ったんです。その甲斐あってブラスバンド部は、姫路市の中学校の演奏会で金賞をもらったことがありました」
予算も一気にアップし、翌年にはブラスバンド部の楽器が総取っ換えになった。功績を認められ、木村は二年生に進級すると、三年生を差しおいて部長に任命された。