自身の健康や老後の生活に漠然とした不安を抱く人の心の隙間に忍び寄り、「このままでは不幸になる」などと巧みに不安を煽り、高額な商品を売りつける手口が存在する。占いや予言を口実に、効果が不確実な商品を契約してしまった場合、その契約は取り消せるのだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー「不幸を避けられる」という不確かな効果を謳う販売は法的に問題か?
そのような販売方法は法的に極めて問題が大きいと考えます。事業者が「霊感」のように合理的に実証することが困難な能力を用いて消費者の不安を煽り、商品やサービスを契約させようとする行為は、消費者契約法によって厳しく規制されています。
平成30年に改正された消費者契約法にて、霊感商法に関する規定が明確化されています。具体的には、事業者が消費者に対し、霊感などの特別な能力を根拠に「このままではあなたや家族に重大な不利益が生じる」と不安を煽り、「この契約を結べば確実にその不利益を回避できる」と告げて契約させた場合、消費者はその契約を取り消すことができると定められています。
つまり、「不幸を避けられる」「運気が上がる」といった謳い文句で、高額な壺や印鑑、数珠などを販売する行為は、この法律が規制する対象です。
ー不安を煽られて結んでしまった契約は取り消せますか
一度結んでしまった契約であっても、後から取り消すことは可能です。消費者契約法は、事業者の不当な勧誘によって消費者が「困惑」し、その結果として行った契約の意思表示は取り消すことができると定めています。
ここでの「困惑」とは、不安を煽られたことなどにより、消費者が精神的に自由な判断ができない心理状態に陥ることを指します。例えば、占い師から「あなたには悪霊がついている。このままでは病気になる」などと言われ、正常な判断ができないまま高額な数珠の購入契約を結んでしまったケースなどがこれに該当します。
ーこれは「霊感商法」にあたりますか
相談のような手口は、典型的な「霊感商法」であると言えるでしょう。霊感商法とは、本来はさほど価値のない壺や印鑑などに対し、あたかも超自然的な霊力があるかのように言葉巧みに思わせ、不当に高い価格で売りつける商法です。
手口が悪質であった場合には、単なる消費者トラブルに留まらず、刑法の「詐欺罪」や「恐喝罪」に問える可能性もあります。相手を騙して金品を交付させる行為は詐欺罪の構成要件に該当しうるため、単に契約を取り消すだけでなく、刑事事件として警察への相談も検討するといいでしょう。
ー一度支払ったお金は取り戻せますか
契約を取り消すことができれば、支払ったお金を取り戻すことは可能です。契約の取り消しとは、その契約を初めから無かったことにする効果を持ちます。したがって、消費者は事業者に対して支払った代金の返還を請求する権利があり、事業者はそれに応じる義務が生じます。
もし被害に遭ってしまった場合、一人で抱え込まずに、まずは消費生活センターや、法テラス、弁護士などの専門機関に相談してください。具体的な状況に応じた適切なアドバイスや支援を受けることができるでしょう。
●北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。