気温の上昇と共に、梅雨のジメジメとした季節が近づくと、職場での「匂い」が気になり始める人もいるだろう。汗の匂いはもちろんのこと、タバコや香水、柔軟剤、あるいは昼食の匂いなど、人によっては仕事に支障をきたすほど深刻な問題となる程だ。
いわゆる「スメルハラスメント(スメハラ)」に、私たちは、そして企業はどう向き合っていくべきなのだろうか。社会保険労務士の香川昌彦さんに話を聞いた。
ースメハラとはどのようなものですか?
スメハラは「匂いによって、職場で他者を不快にさせること」と言われています。ただし、セクハラやパワハラが意図的な「行為」であるのに対し、スメハラは必ずしもそうとは限らない点が大きな違いです。
スメハラは、いわゆるハラスメントというよりも、良好な職場環境を維持するという観点から捉えるべきでしょう。一方的に「ハラスメントだ」と断じるのではなく、お互いが気持ちよく働くための環境整備の問題として考えることが大切です。
ーどんな種類の匂いが問題になりますか?
「自分で改善できるもの」と「そうでないもの」に分けられます。タバコ、香水、香りの強い洗剤や柔軟剤、ニンニクなど匂いの強い食事などは、本人の意識や工夫である程度コントロールできる部分が大きいでしょう。
一方で、汗や体臭、加齢臭、あるいは口臭などは、体質や健康状態が関係している場合があり、本人の努力だけではどうにもならないケースも存在します。デリケートな問題でもあるため、指摘の仕方によっては相手を深く傷つけてしまう可能性もあります。
ー企業ではどのような取り組みがおこなわれていますか?
具体的なガイドラインを設けている企業もあります。例えば、「出勤前はシャワーを浴び、清潔な衣服を着用する」「香水やコロンは適度な量に抑える」といった内容です。これは、企業が労働安全衛生法に基づき「快適な職場環境を維持する義務」を果たすことにもつながります。
大切なのは、特定の個人を攻撃するのではなく、「みんなで快適な職場環境を作っていこう」というポジティブなメッセージを発信することです。
ー職場の匂いが気になるとき、どうすればいいでしょうか
直接本人に伝えるのは、相手を傷つけるリスクが高いため避けたほうがいいでしょう。人事部や相談窓口に相談するのも手段のひとつで、相談先がなければ上司や社長に相談するのがおすすめです。「職場全体の匂い環境について改善してほしい」という形で提起するのが賢明でしょう。
体臭がきつい場合は、メンタル不調や健康状態の悪化が背景にある可能性もあります。産業医や人事担当者との面談を促すなど、健康管理の視点からのアプローチも必要になる場合もあります。
いずれにしても、匂いの問題を個人の責任に帰するのではなく、誰もが快適に働ける職場環境を維持するための「ビジネスマナー」として捉え、組織全体で取り組んでいく姿勢が求められます。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市から労使の共存共栄を目指す職場づくりを支援。人材育成・定着のための就業規則整備や評価制度構築、障害者雇用、同一労働同一賃金への対応といった実務支援は、常に現場の視点に立つ。ネットニュース監修や講演にて情報発信を行う一方で、SNSでは「#ラーメン社労士」としても活動し、親しみやすい人柄で信頼を得ている。