コメの価格高騰の影響は街の定食屋にも及び、これまで無料サービスだったご飯のおかわりや大盛りが有料になるという店も出てきた。そんな世相を反映した「ご飯大盛りの有料化」に動揺を隠せない読者に向け、「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏が対策を提言した。
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【今回のピンチ】
行きつけの定食屋で「ご飯大盛りで」と頼んだら、「有料になります」と言われた。今までは無料サービスだったので驚いたが、動揺を押し隠しつつスマートに返したい……。
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いつも行っている定食屋。安くておいしいだけでなく、大食漢の自分にとっては「ご飯大盛り無料サービス」というところが、とくにお気に入りです。今日も席について「生姜焼き定食、ご飯大盛りで」と注文。すると若い店員が「大盛りはプラス150円です」と意外なひと言を口にするではありませんか。
このご時世、そうせざるを得ない事情はよくわかります。あらためて店内を見ると、あちこちに「ご飯大盛りはプラス150円とさせていただきます」という貼り紙もありました。無料サービスがなくなったのは仕方ないと思いますが、なんせ心の準備ができていません。もう少しで「おいおい、勘弁してくれよー!」と発してしまうところでした。
そんな最悪の事態はギリギリで回避できましたが、ひとつ間違えると恥ずかしい態度を取ってしまいそうです。微妙だけど己の美意識を貫けるか否かの大ピンチ。似た状況になったときのためにも、どう切り抜ければいいかを考えてみましょう。
今さら「あ、じゃあ、普通盛りで」とは言いづらいところ。いや、言ってもいいんですけど、おいしく気持ちよく食べることができなくなるし、量的に物足りなさを覚えるのは確実です。知らなかったのに「うん、わかってるよ」とすまし顔で返したら、不自然さがにじみ出てしまうでしょう。
内心「150円は高くない!?」とひるんだ場面でやってしまいがちなのが、ケチ臭く見せないために「150円か。安いじゃん」と虚勢を張ること。「お米、高いからね。150円でも安いよ」とわざわざ理解を示すのも同様ですが、余計にケチ臭く見えます。
最悪なのは、平静を装うために「もちろん問題ないよ。というか、むしろこれまで無料サービスを続けてくれてありがとうだよね。大盛りが有料になっても、この店はコスパがいいことに変わりはないから、これからもちょくちょく来ます。よろしくお願いします」などと、長々と語ってしまうこと。めちゃくちゃ動揺しているのがバレバレだし、忙しい店員を付き合わせるのは極めて迷惑です。
ここは、素直に「あっ、そうなんだ」と驚きを示したうえで、大人の貫禄を感じさせるフレーズを繰り出すのがオススメ。「OK、OK、OK牧場!」と、ガッツ石松さんの懐かしい流行語を明るく繰り出しましょう。若い店員にとってはきっと意味不明のフレーズですが、何か小粋なことを言っている気配は感じてくれるに違いありません。
「OK牧場」を口にする勇気が出ない場合は、さわやかな印象を残す方向もあります。店員が機械的でぶっきらぼうな口調で聞いてきたとしても、「確認してくれてありがとう。大丈夫です!」と力強く返せばOK牧場。驚きや戸惑いを乗り越えて、このお店との新しい歴史を歩んで行こうという決意を満天下に示せた気になれそうです。誰も受け止めていなくても、そこは問題ではありません。