漫画家・平松伸二氏、江戸時代が舞台の「大江戸ブラック・エンジェルズ」を描く理由「PCより天井裏」 

北村 泰介 北村 泰介
連載中の「大江戸ブラック・エンジェルズ」について語る漫画家・平松伸二氏=東京・浅草の漫画ギャラリーCAFE オカオカ
連載中の「大江戸ブラック・エンジェルズ」について語る漫画家・平松伸二氏=東京・浅草の漫画ギャラリーCAFE オカオカ

 「ドーベルマン刑事」や「ブラック・エンジェルズ」といった「勧善懲悪」をテーマにしたヒット作で知られる漫画家・平松伸二氏は現在、江戸時代を舞台にした新作「大江戸ブラック・エンジェルズ」を隔月ペースで連載している。「法で裁けない悪を成敗する」作風は一貫しているが、現代物だった往年の代表作と違って、新たに「時代劇画」に活路を見いだした背景にはどのような思いがあったのだろうか。今年8月で古希を迎える平松氏に話を聞いた。

 「大江戸ブラック・エンジェルズ」は平松氏の代表作「ブラック・エンジェルズ」(1981~85年、週刊少年ジャンプ連載)の設定を江戸時代に置き換えたスピンオフ作品。2020年から月刊時代劇漫画雑誌「コミック乱」(リイド社)で連載している。主人公は売れない浮世絵師・雪士(ゆきじ)。法の網をかいくぐって悪事を重ねる〝外道〟に死の裁きを与える「闇の仕置人」だ。

 時代劇画に取り組み始めたのは60代半ばからだった。在住する東京・葛飾区では特殊詐欺警戒の啓蒙ポスターやチラシを描き、20年8月からは「犯罪未然防止啓発ラッピングバス」の車体に「ブラック・エンジェルズ」のキャラクター(松田鏡二、雪藤洋士)が登場している。

 「6、7年前からですかね。葛飾区からお話があり、『僕の漫画でいいんですか?』と聞き返しました」。行政を通して現代の犯罪と向き合う仕事にも携わるようになったが、「闇バイト」などインターネット社会の犯罪形態は、ヒット作を描いていた昭和(1970~80年代)とは隔世の感があり、ギャップを感じているという。

 「僕自身がアナログ人間なので『ネットどうのこうのを使う犯罪』というものをリアルに描けないと思うんですよ。原作があれば別でしょうけど。だから、今は江戸時代を舞台にした作品を描いている。情報を探るにしても『天井裏からのぞきこむ』とか『床下に潜り込んで聞き耳を立てる』…とかっていう、そっちの方が僕の体質に合うんですよね。パソコンをいじくって〝どうのこうの〟やるより、直接(人間が体を使って)やるほうが分かりやすいんですよね、僕は」

 〝ネットの闇〟を利用した「悪」を描けるか…と考えた時、その筆は現代ではなく「江戸」にたどり着いた。 「月刊誌で、隔月にしてもらって、奇数月に掲載されています」。新作は「コミック乱」の27日発売号に掲載予定。単行本(6巻)も同日に発売される。70代以降も「時代劇」の世界観で新作を展開していきたいという。

 「もし、『大江戸~』が終わって、次に何をやるかとなったら、現代劇に戻れるかな…というのがあるんですよね(笑)。時代劇の方が、僕の感性から言っても、現代物をやるよりは合っているような気がするんですよ。最近では、映画の『侍タイムスリッパー』」とか、ハリウッドの『SHOGUN将軍』にしても、時代劇の映画やドラマが出てきて、ブームというほどにはなっていないのかもしれないですけど、一部では確かに注目されていますから」

 今年で「ドーベルマン刑事」連載開始から半世紀となるが、岡山・高梁(たかはし)高校1年だった71年に週刊少年ジャンプでの読み切り作品で一足早くデビューしていた。

 「高校生時代に描いた作品を入れると54年くらいになります。今の時代は雑誌がなくても、ネット連載もできるので漫画家寿命はすごく延びていると思うんですよ。だから、(キャリア)50年といっても、今後もざらにいる状況になるとは思うんですよね。ただ、僕は紙でやりたいですよね、ここまで来たら」

 10年ほど前からは代表作のイラストに書を融合させた「漫書」にも取り組む。

 「江戸時代の浮世絵が何百年か経って、芸術作品として評価されているじゃないですか。ひょっとしたら、漫画の絵だって、あと100年か何百年かしたら、浮世絵みたいに評価される時代が来るかもしれないですよね。色紙に描いた『漫書』の色塗りは色鉛筆、大きいサイズは絵の具です。これからも描いていくと思います」

 まさに現代の〝浮世絵師〟。江戸を舞台に、温故知新の精神で作品を生み続ける。

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