大ヒット漫画「ブラック・エンジェルズ」の背景にあった必殺シリーズ、作者が証言「反体制側の勧善懲悪」

北村 泰介 北村 泰介
自作「ブラック・エンジェルズ」について語る漫画家・平松伸二氏=東京・浅草の「漫画ギャラリーCAFE オカオカ」
自作「ブラック・エンジェルズ」について語る漫画家・平松伸二氏=東京・浅草の「漫画ギャラリーCAFE オカオカ」

 1970~80年代に「法で裁けない悪を成敗する」というテーマの漫画が大ヒットした。その第一人者である漫画家・平松伸二氏が今年、代表作「ドーベルマン刑事」の連載開始50周年と「ブラック・エンジェルズ」の完成40周年、さらに自身も今年8月で70歳になるという節目の年を迎えた。平松氏がよろず~ニュースの取材に対し、作品の背景などを語った。

 平松氏が作画を担当した「ドーベルマン刑事」(原作・武論尊)は75年から79年まで、「ブラック・エンジェルズ」は平松氏のオリジナル作品(全155話)で81年から85年まで、いずれも週刊少年ジャンプで連載された。両作品には「勧善懲悪」の精神が貫かれているが、描く視点は〝コインの裏表〟だった。

 平松氏は「『ドーベルマン刑事』という作品は〝刑事〟という体制側の勧善懲悪だった。その後、『リッキー台風』(80~81年、週刊少年ジャンプで連載)という(プロレスを題材にした)漫画を描いたんですけど、ドーベルマン刑事のヒットには及ばない感じで、やはり、自分にとって『勧善懲悪』が描いていて体質に合っているのかなと思った。『必殺』シリーズもはやっていたし、今度は反体制側からの勧善懲悪をやろうかなと思ったのが『ブラック・エンジェルズ』を発想した元でした」と明かす。

 時代背景として、大ヒットしたテレビ時代劇「必殺」シリーズ(朝日放送・松竹制作)の影響もあった。「必殺」といえば、法で裁けない悪事に対し、市井の殺し屋たちが被害者に代わって、権力の笠を着る悪者(外道)を独特の殺法で仕留めるというストーリー。「ブラック・エンジェルズ」の主人公・雪藤洋士は自転車のスポークで相手の急所(首の後ろなど)をひと突きして即死させる。第1作「必殺仕掛人」で緒形拳が演じた鍼灸医の藤枝梅安(ばいあん)をほうふつとさせた。

 平松氏は「確かに梅安のイメージはありますね。主人公は日本全国を自転車で旅しているという設定なので、いざ、悪人をやっつける時に武器をどうしようかなと思った時、『あ、スポークがあるじゃん』と。車輪をクルッと回してピンッと手に取るイメージが浮かんだ」と証言。日頃は虫も殺さないような少年が一転、クールに人を瞬殺するという二面性について、平松氏は「(藤田まことが演じた)中村主水のイメージです」と付け加えた。

 その「ブラック~」も後半になると壮大でSF的な物語に転化する。平松氏は「ジャンプの連載漫画は(傾向として)そうだと思いますけど、エスカレートして、相手もどんどん強くなっていくので、どうしても超人的な内容になっていったんです」と振り返った。

 今年1月末からはセルフオマージュ作品「ブラック・エンジェルズNEO」の配信が始まった。監修を担当する平松氏は「今回は配信の漫画になります。僕の感性で40年以上前に描いた『ブラック・エンジェルズ』が今の20代、30代の作家が描いたらどうなるのかなと僕自身も興味があります」と期待を寄せた。

 2月までは漫画家・タレントの浜田ブリトニーが経営する東京・浅草の「漫画ギャラリーCAFE オカオカ」で「連載デビュー50周年企画 平松伸二展」が開催され、最終日には配信中の「~NEO」〝応援隊〟を務める高校2年生のグラビアアイドル・矢澤サエ、司会の芸人・生徒会長金子と共にトークイベントが開催された。

 17歳の矢澤と並んだ69歳の平松氏は「女子高生と口をきいたのは何年ぶりだろう。孫の世代ですよね」と笑顔で照れながら、国内だけでなくカナダやイタリアからもファンが参加した盛況ぶりに「ありがたいですね」と感謝。長年、鍛えてきた体には、まもなく古希を迎えるとは思えない若々しさがあった。

 「力道山の時代からプロレスや格闘技を見るのが好きで、50~60代で筋トレをやっていました。今はきつくなってきたので、ジムには行かず、自宅でヒンズースクワットをしたり、歩いたり、居合いをやったり、プールに行ったりですね」

 体が資本。平松氏は「古希になりますが。まだ描けると思っています。さすがに若い頃のように週刊は無理だろうけど、できるペースで今後も続けていきたい」と生涯現役を見据えた。

よろず〜の求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース