タクシーに乗って「ラジオをつけて」と頼んだ経験はあるだろうか?
頼まなくてもナイターや高校野球のラジオ中継はタクシー内でバンバン流れていた記憶があるし、G1レースの馬券を買っている時は「すみません、競馬中継を…」と、運転手さんにお願いしたことがある。
未明まで勤務する部署にいた時はどうしても帰宅がタクシーになるため、車内で「オールナイトニッポン」や「JUNK」を聴きながら帰ったことも。当時、深夜のタクシー運転手さんはだいたいNHKラジオ第1、FMで放送されている「ラジオ深夜便」をかけていた覚えがある。
最近、X(旧ツイッター)で「ラジオを流しているタクシーが少ない」「『(タクシー会社で)禁止されている』と言われた」などとのポストがあり、タクシーでラジオをつけるよう求めても断られた経験を持つラジオリスナー(聴取者)の不満がうず巻いた。
本当なんだろうか?東京ハイヤー・タクシー協会の担当者は「それぞれの会社の決まりや判断で、タクシー内でラジオを流すことを禁止している社もあると思うが、協会として事業者に、車内でのラジオ聴取を禁止するよう言っている事実はありません」とし、私見として「タクシー事業者で、ラジオをつけないよう運転手に呼びかけている社があるというのはお聞きもしてないし、承知もしていない」とした。
話を聞くうちに、衝撃の事実が。「東京を始め、全国でセダン型ではなくワゴン型の『JPN TAXI(ジャパンタクシー)』という車種のタクシーが増えています。タクシー専用車はトヨタのこの一車種しかないんですが、そもそも、ラジオが標準装備で付いていません」(担当者)。街で良く見るようになったあの形状のタクシーには、AM・FMラジオが付いてないという。
オプションでラジオは装備できるというが、担当者は「ジャパンタクシーは1台400万円くらいするので、値段を上げないようにラジオレスにしている。ラジオをわざわざつけている会社は、ほぼないのでは…」と予測した。
ひと昔前、タクシー車内でラジオがあった部分には、タクシーアプリの配車システムのモニターが装備されていることが多いという。
ラジオをつけていると、乗車中ずっと動画広告が流れているタクシーサイネージとの音声が混じるためだとのとの指摘があるが「それは関係がありません」(担当者)と否定した。「普通の乗用車を架装している個人タクシーや、セダン型のタクシーには、まだラジオがついているのでは」。
ラジオ局はどう思っているのだろうか。「ラジ関(かん)」の愛称を持ち、巨人戦のナイター中継や洋楽・音楽番組、アニラジなどが人気のラジオ局・ラジオ関西(神戸市)の担当者は「客とトラブルがあった時などのためにつけているレコーダーにラジオの音声が混じるので、つけないという話は聞いたことがある。タクシーでラジオが聴けないということは把握していないし、タクシー運転手がラジオを聴かなくなったというデータもないが、実感として総合的なラジオ離れは進んでいると思う」とした。
同局では、道路の渋滞情報を伝えるドライバー向けの「交通情報」の本数が、一時期より減っている。「交通情報にスポンサーがつかないというのもあるが、どうしても車が混んでいる朝、夕方に集中させ、昼間の本数を減らしている」(担当者)とし、他局では交通情報の放送自体を取りやめた例もあるという。
車内に限らず、地上波でラジオを聴く機会は減っているが、スマホやパソコンでラジオ番組を聴くradiko(ラジコ)での聴取は増えているという。兵庫県域のラジオ局ながら、同局の「関西ジュニア とれたて関ジュース」は、24年の10代女子にラジコで聴かれた番組の10位にランクインした(注・同番組は全国放送のラジオNIKKEIでも放送されている)。
ラジオ関西の担当者は「電波…地上波での受信より、ラジコやポッドキャストに移っている感じ。車に限らず、いろんなものにラジオをつけてほしいですが…。全く聴かれないよりは、どんな形でも触れて欲しい」と語る。タクシーの〝ラジオ離れ〟は、思いのほか進んでいるようだ。