NHK大河ドラマ「光る君へ」の主人公は紫式部です。式部の弟は藤原惟規(1011年死去)であり、その恋人に斎院中将(中将の君)がいました。賀茂斎院の選子内親王(村上天皇の皇女)に仕えた女性です。大河ドラマでは現時点で描かれていませんが、実は、紫式部は弟の恋人のことを日記(『紫式部日記』)の中で非難しています。
それは一体なぜなのでしょうか。その前に、式部は中将の君のことをどのように日記に書いているのか、見ておきましょう。先ず式部はこう書きます。
「斎院の女房に中将の君という人がおります。この人のことについて聞き知っている伝手がおり、ある人のところに書き送った手紙をこっそり人がとって見せてくれました」と。
式部は中将の君の手紙の内容を「大層、優雅ぶって」「自分ほど世の中には物の趣を理解し、心の深いものはあるまい、総じて世間の人は趣を解する趣を解する心も分別もないとでも言うように思っている」と非難しています。
要は、中将の君(の手紙)は上から目線と言うことでしょうか。
さらに式部は手紙を読んで「いらいらした」「憎らしく思った」とまで書いているから、相当手紙の内容に腹を立てたと思われます。手紙には「手紙の書き振りや、和歌は斎院様より他に誰が鑑別なさる人があるでしょうか。文才のある人かどうかは、斎院様だけが見分けることができるのです」と書いてあったようです。式部はそこを取り上げて、そうした面もあるにはあるが、斎院から世間に出た歌で特別優れたものはないと主張します。
その上で、式部が仕えている中宮(一条天皇の中宮・彰子。彰子は藤原道長の娘)より、斎院の女房が優っているとは限らないでしょうと言っているのです。
式部日記によると、中将の君は、中宮に仕える女房のことを非難していたようですが、式部にはそれがカチンときたようです。中将の君の手紙はある人が隠しておいたものを盗み出して、それを式部が見て、すぐに返してしまったとのことです。式部は、斎院を賞賛し、中宮方を貶す中将の君の態度を傲慢だと感じたのでしょう。