日常会話において「政治や宗教の話はするな」といわれることがある。日頃は親しい間柄の相手であっても、そこに思想信条の違いに由来する感情のぶつかり合いが生じるというわけだ。SNSでも特定の団体や候補者への支持を表明するだけで非難されるケースもある。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏がその対策を提言した。
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【今回のピンチ】
同僚との雑談で、もうすぐ投票日の選挙の話題に。何気なく「俺はAさんに投票しようかな」と言ったら、相手が激高して「そんなヤツとは思わなかった。ガッカリだよ」と……。
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そもそも同僚との雑談で、うっかり政治の話題を持ち出したのが間違いでした。政治や宗教の話は、人を無駄に熱くさせます。
自分としては「正しいこと」を言っているつもりなので、相手が賛同しないと、自分が丸ごと否定された気になるからでしょうか。勝手に「虎の威」を借りて、自分が偉くなったと錯覚する傾向もありそうです。
しかし、もはや手遅れ。同僚は「知ってるのか、あいつはなあ……」といった調子で、こちらが投票するつもりだと言ったAさんへの批判が止まりません。
日頃は穏やかなタイプなのに、厄介な地雷を踏んでしまいました。この降ってわいたピンチをどう乗り切ればいいのか。
「でも、Aさんにはこんな素晴らしいところが」と反論したら、相手をますます張り切らせるのは確実です。とはいえ、面倒だからと「わかった、わかった。Aさんはやめて、お前が推してるBさんに投票するよ」と(口先だけで)意見を変えるのは、あまりにも安直なその場しのぎ。あとから自己嫌悪にさいなまれるという別のピンチを招きかねません。
「支持する候補者が違うからといって、ガッカリされる筋合いはないと思うけど」と、至極もっともな指摘をしても、熱くなっている相手には伝わらないでしょう。こっちこそ「そんなヤツとは思わなかった。ガッカリだよ」という気持ちですが、それを言ったら決定的に仲違いすることになります。
ここは、いかに素早く話を切り上げるかが大切。まずは、「ヘンな話になっちゃってごめん」と謝ります。選挙の話題をどっちが先に出してきたかは関係ありません。続いて「投票するまでに、もうちょっと考えてみるよ。ありがとう」とお礼を言えば、相手もそこで話をやめてくれるはずです。
「おいおい」と思うことがあっても、相手と今後も無難な関係を続けたい場合は、深入りせずに素早く身をかわすのがいちばん。「ごめん&ありがとう」の合わせ技で、「このことについては、これ以上話す気はない」という意思を明確に示しましょう。
「ちゃんと議論するのが大事」という意見もあるかもしれません。しかし、世の中で「議論」と呼ばれているものの99%は単なる罵り合いです。相手の意見なんて聞く気はなく、いかに相手をやり込めるか、いかに〝論破〟するかしか考えていません。マイナスの感情を増幅するだけで、極めて不毛です。
今は熱くなっている同僚も、選挙前のザワザワした雰囲気に惑わされているだけ。投票日が終われば、またいつもの穏やかな彼に戻るでしょう。「そういうこともあるよね」という温かい目で見守りたいものです。
ちなみに、この原稿はまったくのフィクションであり、実在の選挙には関係ありません。それはさておき、もうすぐ選挙がある地域の方は、とりあえず投票に行きましょう。