近年、学校の水泳授業で着用する水着が男女の性差をなくしたスタイルに様変わりしている。LGBTQへの理解を背景に〝ジェンダーレス水着〟という見方もされるが、対象はより幅広い層であり、従来の水着では悩みの種になっていた身体的な要因をカバーするという意図がある。学校用水着大手「フットマーク」(本社・東京)は8日に「男女共用セパレーツ水着」を発売。開発担当者にその経緯や詳細、学校の水泳授業の今後について聞いた。
同社では2022年に「肌の露出が少なく、体のラインが目立ちにくい」といった特徴がある水着の概要を発表し、同年度は公立中学校の3校が従来の水着と選択できる形で導入。23年度は300校以上が導入し、今年度は400校以上での採用を見込んでいるという。
形状の特徴としては、長袖の上着とハーフパンツの上下に分かれたセパレーツ型で、体形の違いが目立たないデザイン。上着は肌の露出を控えるように長袖にし、腰や尻回りなど身体的な違いが表れる部位は肌にぴったり付着しない素材を使い、ゆったりとしたシルエットで調整した。
開発のきっかけは5-6年前に「どの水着を選んでいいか分からない」という性の悩みを持つ生徒がいるという販売店からの相談だったという。一方で「水着姿になるのが嫌」という思いが水泳授業の参加率に影響しているという課題もあった。
学校現場においてはLGBTQへの理解が高まり、女子のスラックス着用など制服の自由化が進んでいるが、スクール水着では男女別のデザインが根強く、性差による違いが露わになるようなものが多いのが現状だった。そこで「男女とも同じ形にすることで性別による水着の選びにくさを払拭し、内面と外見で性の異なる生徒も迷わず選び着ることができる水着」を開発。「ジェンダーレス対応」や「肌を見せたくない」という声だけでなく、「肌の疾患が気になる」「手術跡を見せたくない」など様々な悩みにも対応している。
実際に現場からどのような声があるのだろうか。昨年度に着用した生徒からは「日焼けをするのが嫌でこの水着を選んだ」「アトピーで肌が弱いのでこういうものが着たかった」「(はっ水加工で)水をはじくから、ぴったりしてなくても泳ぎやすい」「(布面積が大きいので)プールサイドでも寒くないのがうれしい」といった声が寄せられたという。
今年度のリニューアルは「上着めくれ防止スナップボタン」「トップスインナー」「上下別のサイズを選択可能」の3点。水中で上着の背中のすそがめくれないかという懸念に対し、腹部分のめくれ防止ループに加え、両サイドをスナップボタンで留めて背中のめくれも改善。「上着1枚だけで着るのは不安」という声に対して、バストをサポートする別売りのトップスインナーを開発。パットを入れるポケットも付けた。成長期のユーザーは体の発達具合が人によって異なるため、体型に合ったサイズを上下別に選べるようにした。
あえて、「ジェンダーレス」というワードを外した。その商品名には意味がある。
担当者は「私たちが名付けた『男女共用セパレーツ水着』という商品名には『実際に使う生徒さんが手に取りやすいように』という思いが込められています。『ジェンダーレス』という名称では、本当に必要としている(当事者の)生徒さんが購入しにくくなってしまうかもしれません。誰がこの商品を手に取っても、違和感のないように『男女共用』を商品名にしています。パッケージには『ジェンダーレス』という言葉も使わず、シンプルなものにしています」と明かした。
今後、学校の水泳授業はどのように変わっていくのだろうか。
同社の担当者は「水泳授業の環境は、授業の場所が学校から公共プールまたは民間のスイミングクラブで実施するケースが増えてくるのが予想されます。学校のプールの老朽化や維持費、先生の労力負担軽減が背景にあります」と指摘。その上で、「屋外から室内に場所が変わり、紫外線対策は不要になってきますが、肌の露出を抑えたい、体のラインを隠したいという生徒の心理面での不安は『男女共用セパレーツ水着』が継続してお役に立てると思っております。弊社が大切にしている『1/1の視点』(1人の言葉を大切にして商品開発をすること)の視点を持ち、着用した生徒さんの意見を聞いて検討していきたと思います」との見解を示した。
もちろん、選択は自由。心と体に一番フィットする水着が多様性の時代に模索されている。