藤子・F・不二雄、藤子不二雄Ⓐ作品の人気キャラクター「ラーメン大好き小池さん」のモデルとして知られる、アニメーション作家の鈴木伸一氏(90)が5日、翌日に開幕する企画展「鈴木伸一のアニメーションづくりは楽しい‼~トキワ荘からアニメの世界へ~」(トキワ荘マンガミュージアム、7月15日まで)の会見に出席。トキワ荘時代の思い出、「小池さん」誕生に関する思い出を語った。
もじゃもじゃ頭のメガネ姿で、ムニュムニュした口で常にラーメンを食べている「小池さん」。そのモデルである鈴木氏は、多くの大物漫画家を輩出したトキワ荘からアニメーションの道に進み、今も現役として活動中。その歩みはもちろん、アニメのつくり方、アニメの種類も紹介しつつ、鈴木氏の業績を網羅した初の回顧展となる。
鈴木氏は1933年、長崎に生まれた。漫画家を志し中学時代から雑誌「漫画少年」に投稿し、入選の常連だった。印刷会社勤務ののち上京。同編集部の紹介で1955年、寺田ヒロオ、藤子不二雄の両氏が住んでいたトキワ荘に入居。後に石ノ森章太郎、赤塚不二夫が入居し、鈴木氏は翌年に転居。横山隆一が主宰するおとぎプロに入社し、住み込みでアニメ作家への道を進んだ。
初めてトキワ荘を訪れた時を「漫画少年」投稿者の常連が集まった顔ぶれだけに「お互いに名前を知っていたので、すぐに友達になりました」と回顧。ほどなく漫画家仲間が暮らしていた2階に空き部屋ができ、入居した。「皆で集まって『新漫画党』というグループを作りました。一緒に仕事をしていると、互いのいいところを吸収できるんですよね。手塚先生やいろんな方と知り合うこともできました」と感謝した。
当時は藤子不二雄Ⓐこと安孫子素雄が漫画「まんが道」でお馴染みのラーメン屋・松葉に出前を頼み、食事する機会が多かったという。「おいしかったんですよ。なぜおいしいかというと、ラーメンを持ってくるまでの時間と揺れが麺にちょうど良かった。麺類には大事なことだと思っています」と話し、笑いを呼んだ。
1965年開始の藤子不二雄「オバケのQ太郎」で小池さんが初登場する。「僕が小池さんの家に下宿していたとき、『Q太郎』にいつもラーメンを食べている人が出て話題になったんです。漫画に『小池』と表札が書いてあったから『小池さん』になりました。鈴木と書いてほしかったな」と冗談っぽく語った。なお、小池家には結婚後も含め、長期間の下宿で世話になったという。
トキワ荘は入居翌年に退去と、短い在住期間となった。漫画家の中村伊助から「フクちゃん」で有名な横山隆一を紹介され、横山が主宰するおとぎプロに入社し、アニメ作家へと転身したためだった。
「トキワ荘時代は貧乏でしたが、横山先生のところは食事付き。いい食事が毎回出てきて、布団も貸してくれて寝泊まりできる。心配なく、好きなアニメーションをたっぷりやれて、うれしかった。幸せな生活でした」と述懐。「漫画も好きなんですけども、漫画はもっと才能が必要なんです。個人でやりますから。アニメーションというのはチームでやりますからね。それはそれで面白いところがある」と語り、「日本のアニメーションは世界中で見られている。そのきっかけを作った横山先生、手塚先生と一緒に仕事をさせてもらいました」と感慨深げに語った。
おとぎプロを退社し、1963年にはトキワ荘の仲間とともにスタジオゼロを設立し、テレビアニメの制作を開始した。