「野球音盤」756枚が一冊の本に!若き日の阪神・岡田監督が歌った伝説のデュエット曲とは?著者はDJ

北村 泰介 北村 泰介
日本ハムのユニホーム姿で同球団のLPと新刊『プロ野球 音の球宴・ディスクガイド』を手にする著者のF.P.M.中嶋氏=東京・神保町RRR
日本ハムのユニホーム姿で同球団のLPと新刊『プロ野球 音の球宴・ディスクガイド』を手にする著者のF.P.M.中嶋氏=東京・神保町RRR

 プロ野球選手は〝レコード歌手〟でもあった。そんな時代の「野球音盤」を紹介する『プロ野球 音の球宴・ディスクガイド』(東京キララ社)が3月上旬に発売された。選手が歌うレコードのほか、球団歌や応援歌、企画もの、選手の家族が歌った曲など、計756枚のジャケット写真とデータを一冊に集約した労作だ。野球音盤DJとして活躍する著者のF.P.M.中嶋氏に話を聞いた。(文中の選手名は敬称略、カッコ内は歌唱当時の所属球団)

 中嶋氏は1998年に始動したDJ イベント「プロ野球 音の球宴」のメンバーで、野球レコード収集家、ライターとしても活動。今年2月に「門田博光、現役最後の背番号(60)」と同じ年齢になった。なお、その名に冠した「FPM」とは「ファンタスティック・ピッチング・マシーン」の略だという。

 「756」という数字は、言うまでもなく王貞治(巨人)が77年に達成した〝ホームラン世界新記録〟に由来。選手が歌うレコード発売が隆盛になるのは、まさにこの頃。「70年代半ば以降」(中嶋氏)という。

 江本孟紀(南海、阪神)、巨人からの阪神移籍で〝男を上げた〟小林繁、松岡弘(ヤクルト)、平松政次(横浜大洋)、巨人ドラフト1位入団の藤城和明と共に「敏いとうとハッピー&ブルー」に加入した柳田真宏(巨人)ら演歌やムード歌謡調が主流となる半面、原辰徳や定岡正二(ともに巨人)、高橋慶彦(広島)、栗山英樹(ヤクルト)といった女性人気の高い〝ヤング〟たちは〝ナウい〟ファッションでポップスを歌った。

 昨年、監督として阪神を日本一に導いた岡田彰布は入団2年目の81年に「岡田真弓」と名乗る女性歌手とデュエットした「逢えば涙になるけれど」(B面はソロ曲「再会の夜」)をリリースしている。

 そして、特筆すべきは〝遅咲きの大型新人歌手〟落合博満。2年連続3度目の三冠王に輝いたロッテ在籍最後の86年に「サムライ街道」でデビューし、信子夫人とデュエットしたカップリング曲「そんなふたりのラブソング」も話題になった。移籍した中日、巨人でも歌い続け、女性歌手とのデュエットも含めると10枚以上のシングル、オリジナルアルバムやベスト盤も出している。

 こうした野球音盤を収集する活動の原点は、92年の神戸にあった。

 DJ仲間との関西ツアーの合間に元町高架通商店街(通称・モトコー)の中古レコード店をハシゴする中で出会った阪急黄金時代の名脇役・大熊忠義のシングル盤「この足で…」。この1枚で覚醒した。同氏は「福本豊も『語り」で参加しています。野球ではバッテリーを夫婦に例えますが、打順でいえば、1番・福本の足(盗塁)を支える2番の大熊が女房役。歌で福本を称える内容です。震災前の神戸で大熊のレコードに出会って『野球選手ってレコード出している人がいっぱいいるんだ』と気づき、集め始めたのがきっかけです」と振り返る。

 中嶋氏は筋金入りのファイターズ・ファンだ。小学4年だった73年、後楽園球場。日本ハムの前身で同年だけ存在した日拓ホームが阪急を迎えた試合を初観戦した。

 張本勲、大杉勝男、白仁天…。「いかついオッサンたちがパジャマみたいな派手なユニホームを着て、ガラガラのスタンドで酒を手にしたオッサンが野次を飛ばしている中で野球をしている。その光景が衝撃で、球場に通うようになった」。初めて手にした音盤は75年に少年ファイターズ会の入会特典として配布されたソノシート。張本が「私の信条は人の話を聞くこと」などと説く「お話」も収録されていた。そうして培った感性が「今」につながっているのか。中嶋氏は「そうかもしれないですね、結果的に…」と微笑み、「当時、僕がジャイアンツファンだったら、この本は出なかったと思います」と明言した。

 2月に都内で開催された出版記念DJイベントで、日本ハムのユニホームに身を包んだ中嶋氏は3時間以上に渡って1人でレコードを回した。江本と入江マチ子のデュエット曲「恋する御堂筋」のB面曲「ジャニスを聴きながら」では本家・荒木一郎を圧倒する〝エモやん〟の歌唱力に脱帽。選手のカバー曲集LP「阪神タイガース 夢の球宴」から中田良弘の「How many いい顔」(郷ひろみ)で会場は熱くなった。張本の説法も静聴した。

 ちなみに同書に収録された「家族もの」は、選手の妻(元妻)として野村沙知代、松本典子、中條かな子、岡村孝子、榎本加奈子ら、息子は金田賢一、娘は青田浩子や吹石一恵、孫では大沢あかね…といった芸能人の音盤が並ぶ。中嶋氏は「ストイックな野球マニアの方からは怒られるかもしれませんが、この辺の趣味性も受け止めていただければうれしいです」と付け加えた。

 新刊は「現時点での報告」という中嶋氏。今後の収集活動での焦点として「タイガースもの」を挙げた。「応援歌や阪神に絡めた歌謡曲はものすごい量があって、自主制作の関連レコードも山ほどあると思います。未発見の音盤を発掘できればと、関西に行った時は必ず中古レコード店を数軒回っています。のんびりコツコツ集めていきたいです」。還暦後も自然体で〝野球音盤探しの旅〟を続けていく。

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