イスラエルとイスラム主義組織ハマスの紛争が続く中、直接関係ない場所でも看過できないようなことが起こり始めている。
ロンドンに住むマリア・ジュリア・アシスさんの6歳になる息子は、自宅で携帯電話のパズルゲームをしていた。ところがゲームの画面は突然、ハマスの戦闘員や怯えるイスラエル市民、さらには生々しい映像に変わったという。
「初めてそれを見たとき息子はショックを受け、かなり動揺した様子だった。見てはいけないものだとわかっていたようだ」とアシスさんは語る。
画像の1つには、血まみれになった子供のリュックサックが映っていた。息子は取り乱した様子でアシスさんに駆け寄り、「ママ、この血まみれの広告は僕の携帯で何してるの?何もクリックしていないのに」と話したという。画面には『ハマスはISISだ』と表示され、やつらは子供たちを誘拐し虐殺している、あなたの子も誘拐されるかもしれないとのメッセージがあった。アシスさんはすぐにこのゲームを削除した。
この経験は、アシスさん親子だけのものではない。ロイターは、欧州全土で少なくともほかに5件のイスラエルを支持する広告がゲームに表示された事例を確認している。人気ゲーム「アングリーバード」の中でもこれらの広告が表示された事例が、少なくとも1件確認された。開発元のロビオ社は、こうした広告が同社のゲームに入り込んでしまったことを確認し、現在は手動でブロックしている。
イスラエル外務省のデジタル部門責任者デビッド・サランガ氏は、この動画が同国政府が制作した広告であることは認めた。しかしサランガ氏は、なぜこの映像が携帯ゲームに表示されるようになったのかは「まったくわからない」という。同氏によれば、この映像はイスラエル支援を呼びかける同国外務省による大規模なプロモーション活動の一環だという。
米カリフォルニア州立大のナンシー・スノー教授は、イスラエルが広告を通して国際世論形成に努めていると指摘する。「イスラエル政府がこうした広告を出していることは驚きではない。イスラエルはハイテク強国で、デジタル外交の利用を公言している。また世界的な情報戦に関与している」
広告に関する規制は国によって異なる。英国では、広告基準局が広告の監督にあたる。同局は、現時点でイスラエル政府の広告を調査しているわけではないとする一方、一般論として生々しい映像が含まれる広告は「18歳未満を対象としないよう」注意する必要があるとしている。
アシスさんは「息子は殺される子供たちのことを私に尋ねてきた。話すのはとても複雑。幼い子供に説明できるようなことではない。彼らがゲーム内で広告を出すことが許容されるのか、理解できない。成人向けのゲームであっても、基本的にプロパガンダを行う場所ではないと思う」と話した。