朝ドラ「ブギウギ」なぜ今、笠置シヅ子か?ラッパー元祖でシングルマザー、大阪弁を全国区に 識者が解説

北村 泰介 北村 泰介
「ブギの女王」として戦後の日本を象徴したスター歌手・笠置シヅ子。NHK朝ドラ新作「ブギウギ」のモデルとなった
「ブギの女王」として戦後の日本を象徴したスター歌手・笠置シヅ子。NHK朝ドラ新作「ブギウギ」のモデルとなった

 「ブギの女王」として一世を風靡(ふうび)した戦後のスター歌手・笠置シヅ子をモデルにしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」が10月2日にスタートする。国民的な昭和の大ヒット曲「東京ブギウギ」から75年を経た令和の今、笠置がクローズアップされる要因とは何か。その足跡や魅力について、新刊「笠置シヅ子 ブギウギ伝説」(興陽館)を出版した娯楽映画研究家・佐藤利明氏に話を聞いた。

 笠置は1914年(大正3年)、香川県生まれ。27年(昭和2年)に舞台デビューし、48年にレコード発売した「東京ブギウギ」は敗戦直後の日本を象徴するスタンダード・ナンバーとなる。

 また、「ジャングル・ブギー」(48年)や「買い物ブギー」(50年)といった躍動感のある「リズム歌謡」は今、聴いても色あせない。特に「買い物ブギー」は日本におけるラップのルーツとも評され、「おっさん、おっさん、これなんぼ」「わて、ホンマによう言わんわ」「あー、しんどー」といった大阪弁のフレーズが強烈だ。佐藤氏は「ブギウギの頂点、大阪弁を全国区にした歌」と指摘する。

 57年の歌手引退後はテレビドラマや映画で俳優として活躍。お茶の間では60年代後半から毎週日曜昼に放送された「家族そろって歌合戦」(TBS)の審査員、70年代には「~でっせ」のフレーズで知られる粉末クレンザーのCMで〝大阪のおばちゃん〟として親しまれ、85年に70歳で死去した。

 今年度後期の〝朝ドラ〟である「ブギウギ」では笠置をモデルにした「香川生まれ、大阪育ちのヒロイン・花田鈴子」を趣里が演じ、大スターへと成長する姿が描かれる。なぜ今、「笠置シヅ子」なのか?

 佐藤氏は「『東京ブギウギ』や『買物ブギー』が誕生して70年以上になりますが、折々にカバーされ、同時にオリジナルの笠置シヅ子さんは、何度も若い世代に『発見』されてきました。敗戦後まもなくの人々が、笠置シヅ子さんのパワフルな歌唱パフォーマンスに魅了されたように、初めてその歌声に触れる人々は、理屈抜きの『パワー』と『底抜けの明るさ』に魅了されてきました。今を生きる我々は、さまざまな『閉塞感』を感じています。先の見えない将来に対する漠然とした不安は『ブギの女王』が登場した敗戦後の人々の感覚に似ているのかも知れません。だからこそ『浮世の憂さ』を晴らしてくれるような、彼女のエネルギーが、令和の今、必要とされているのかもしれません」と見解を示した。

 さらに、大衆音楽史における笠置の足跡について、同氏は次のように解説した。

 「笠置シヅ子さんの魅力は『パワフルな歌声』『ポジティブな表現』『圧倒的なパフォーマンス』にあります。彼女が少女歌劇の世界に入ったのは、小学校を卒業した13歳の時、1927年のことでした、それから10年、コーラス・ガールからスターとなった『少女歌劇の時代』、(作曲家)服部良一さんと出会ってレビューのトップスターとなり、ジャズシンガーとして活躍した戦前の『スイングの女王の時代』、そして、敗戦後、焼け跡の庶民たちに『明るくポジティブな気分』をもたらした『ブギの女王の時代』、それから9年、歌手引退を決意した彼女の最後の主演のステージで歌ったのが『ロックンロール』でした。『敵性音楽』としてジャズを歌うことを禁止された戦時中の苦労も含めて、彼女の足跡をたどることは、日本のレビュー、ジャズ、ポップスの歴史をたどることでもあります」

 私生活では「シングルマザー」であったことも本書では描かれている。戦時中、吉本興業創業者の息子で、9歳下の早大生だった男性と出会って恋愛関係となり、生活を共にして妊娠したが、結婚の願いはかなわないまま、父親となる男性は47年に23歳の若さで病死。悲しい別離の後、同年に誕生した一人娘を抱えて失意の中から立ち上がり、翌年以降の大ブレークとなる。その人生がドラマでは、どのように描写されるかも注目される。

 佐藤氏は「明るい笑顔、全身で陽気なパフォーマンスを演じていた裏側で、人一倍の努力、苦労をしてきた笠置シヅ子さんは、ストイックなまでに『芸』には厳しい方でした。おそらく、ドラマで描かれるであろう、さまざまな出来事、ヒット曲の舞台裏、そこに関わった人々の物語、バックボーンも本書では描いております。残された50数曲の楽曲は配信やCDで楽しむことができます。その歌声は時空を超えて、僕たちを魅了し続けるのだと思います」と締めくくった。

 こうした背景を踏まえて制作された朝ドラの新作。「今の日本には笠置シヅ子が足りない」ということかもしれない。

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