怪談語りにも新旧世代で違い?旧世代は「若手怪談師は薄っぺらい」と苦言、焦点は「死者への鎮魂」あるか

深月 ユリア 深月 ユリア
写真はイメージです(kapinon/stock.adobe.com)
写真はイメージです(kapinon/stock.adobe.com)

 「怪談」を語るイベントが増え、若い世代にも関心を持つ人が多いという。だが、その内容に関しては、新旧の世代間で違う傾向にあるようだ。ジャーナリストの深月ユリア氏が怪談イベントで両世代の声を聞いた。

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 怪談ブームが再来し、毎週のように怪談ライブが日本全国で催されている。筆者は、5月に横浜市内で開催されたイベント「怪談王2023年開幕戦」を取材した。同イベントでは「昔ながらの怪談」を語る、どちらかといえば年輩の「怪談旧世代」と、「現代的な怪談」を語る若手の「怪談新世代」とに分かれて、怪談が語られていた。

 「新世代」の怪談師で女優としても活動する桂子(けいこ)氏は広島原爆で被爆した悲しく切ない霊の話を、一人芝居のような迫真の演技で「新世代」のオリジナリティーを披露。同氏は「怪談は怖い話だけでなく、ちょっと切ない話しや優しく温かな話もあります。皆さんが大切な人を亡くした際には、きっと怖い姿でなく優しい姿で現れるのではないでしょうか」という。

 こうして「悲しみ」を表現した桂子氏のような怪談がある半面、新世代が披露する「現代的な怪談」には、幽霊が出る事故物件のいわゆる「怖い話」なども多いという。旧世代に比べ、枠にはまらない自由さがあるともいえる。

 一方、旧世代のベースとなる「昔ながらの怪談」は、江戸時代から続くもので、特に「四谷怪談」「皿屋敷」「牡丹灯籠」は「日本三大怪談」といわれる。同イベントに「旧世代軍」の一員として出演した作家の山口敏太郎氏に、新旧世代における怪談の違いについて聞いたところ、同氏は新世代に対して辛口な見解を示した。

 山口氏は「新世代は話し方、内容共に薄っぺらいです。『怪談』とは奥深いもので、社会人経験があまりないと、薄っぺらくなりますね。また、『役者で売れないから怪談師もやる』という人もいますが、どんな仕事もそうですが、プロとして本業をもっと頑張ればよいのではないでしょうか。新世代の怪談師はモテるようで、モテたいから怪談師をやる人もいたりする。しかし、旧世代の怪談師はモテるどころか、気持ち悪がられましたよ。要は怪談を語る『覚悟』が(新世代には)足りません」と指摘した。

 では、その怪談を語る『覚悟』に必要なことは何か。山口氏は「怪談は霊の想(おも)いやメッセージを(現世の人間に)伝え、弔い、成仏するように祈る、そんな役割があるのです」と説明。死者の霊魂が帰ってくるとされる暑い夏(お盆の時期)に怪談を語る文化があるのも、鎮魂の意味があるという。浮かばれない死者の霊魂の苦しみ、悲しみ、無念を代弁することで、成仏の手助けをするという。

 その上で、山口氏は「よく勘違いしている人がいますが、『オカルト』と『怪談』を同一視してはなりません。『オカルト』の中に『怪談』は含まれますが、他にも超常現象やUFO、『生まれ変わり』の話など範囲が広いんですね。このような『怪談』の意義を考えると、人が自殺した事故物件を、そのまんま語るという新世代の怪談もいかがなものかと思います」と付け加えた。

 つまり、自殺した人の悲しみ、怒り、無念をエンターテイメントにしてはならないという。山口氏は「怪談を語るには、死者に対する鎮魂の想いが必要です」と強調した。

 たとえば、四谷怪談は「夫(民谷伊右衛門)に裏切られ、毒を盛られて面相が変わり、もだえ苦しみながら死んだ妻(お岩)が、その恨みを抱いて祟(たた)る」という筋立てだが、その話には怒りと悲しみが描写されている。しかし、「怪奇現象が続いたので調べてみると、実は住人が自殺した事故物件だった。自殺者が恐ろしい怨霊になった」という死者の想いを描写しない話は「怖い話」ではあるが、鎮魂の役割をなす「怪談」としては「薄い」という、山口氏のような見解もある。

 もちろん、新旧の怪談にはそれぞれに個性があり、優劣を付けることはできない。桂子氏のように「霊の悲しみ、切なさ」を表現した例もあるように、新世代の怪談を十把ひとからげにして否定することはできないだろう。ただ、シンプルに言えることは、「怪談の原点はとても奥深い」ということだ。

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