ミスiD水野しず 初の論考集「親切人間論」発売、「世の中は詐欺の大ブーム。対抗できるものは親切」

山本 鋼平 山本 鋼平
初の論考集「親切人間論」を発表した水野しず=都内
初の論考集「親切人間論」を発表した水野しず=都内

 ミスiD2015でグランプリに輝き、イラストレーター、POP思想家として活動する水野しずが7日、都内で自身初の論考集「親切人間論」(講談社)の発売会見を行った。会見途中で体調不良に見舞われながら、自身の考えを懸命に伝えた。

 遅刻した水野は謝罪しながら登場。最初に行われた撮影から咳や苦しそうな表情を浮かべた後、出版社側による代表質問で「書店に本が並んだ感想」に対しては「本が出たな、という感じですね」と、「どんな本ですか」という問いに「私の果汁100%で絞ったような…真正面から親切を届けたいという気持ちに一つできたかな」などと答えたところで、「すいません。記者会見酔いで…」と苦悶の表情を浮かべ、椅子に座って会見続行。代表質問に十分に応じられないまま、報道陣の質疑応答に移った。

 「この本を読んだ人にどんな影響を与えたいですか」という問いに、懸命に答えた。

 「今は話題になっているもの、バズっているものとか、そういう身のまわりの流行や世間が、1週間くらいで自分の中を通過していく。短絡的な時間の流れの中で、自分と世の中を紐付けて、どういう時代なのかを測ろうとする。そういうサイクルの話題性に取り込まれないところに自分があると思います。なんで本を読むんだろうとか、ダイエットするんだろうとか、部屋が片付かないとか。家の外では、流行の映画を観に行かないと、とか焦燥感をかきたれられていくのに、身近なことが分からない、どうやって生きていけばいいのか分からない、何のために行動しているのか分からない。手触りが失われていて、やらされている感の中で、感覚的にミニマリストにならなきゃならないとか、本当は一回も考えたことがないようなことを、焦って考えているように思う」と、現状について語った。

 そして「その前にシンプルに考えた方がいいことがある。当たり前のことだから考えてこなかったところにビックリしてもらいたいというか。文章で意識するのは、家でも会社でも言ってもらえないこと、それは真実。真実は言っちゃいけないし、すぐに怒られる。家族でも親しい友人にも真実は言ってもらえない。真実とは何かというと『本は全部読まなくてOK』とか。本当に読まなくていいので。真実を書くときに心がけているのは、少し刺激があるくらいだと、恒常性に導かれて元に戻ってしまうので、読んでいる人の恒常性を破壊させるような沸点を持たせられるようにしています。本を読んでどう思って欲しいかというと、読んでいる人が『うわあ~!パリン!』と(恒常性が破壊された状態に)なればいいかなと思います。すいません。短い言葉で答えられなくて。自分としてはそういう気持ちです」と続けた。

 会見中の体調不良について「何か自分の扱える言葉が一つも生存可能な状態にならないというか、経験したことがないような、対応ができない考えに包まれた。考えすぎでした。記者も人間だと分かってきました。最初は報道される、と怖くなっていました」と説明した。

 「親切人間論」のタイトルについて問われると、口調がだいぶ滑らかになった。

 「今の世の中は詐欺の大ブームだと思っています。それも違法な詐欺じゃなくて、法律的には何の問題もないし、なんなら倫理的にも問題はないけれど、よく考えたら人の道を外れてるんじゃないかっていう。その行いがルーチンのように社会に組み込まれていて、その網の目の中を何とかかいくぐって、自分の意識をつなぎ、命を繋いで、自分の中に目的を作って回収していく生き方を強いられている」と問題を提起した。

 そして「それはすごくおかしいことで、そんな範囲で生きていかなくていい、と私は思う。その力学に対抗できるものは何か。すごく真剣に考えた結果、たどり着いたのが親切でした。親切しか、システマチックなおぞましさに勝つ力はない。本気の親切を伝えたかった」と続けたところで、会見予定時間が過ぎて終了。水野は報道陣に謝罪しながら引き揚げた。

 テレビプロデューサーの佐久間宣行、プロインタビュアーの吉田豪ら、各界で多くの支持者を持つ水野。装幀を祖父江慎が担当し、担当者が「アナログでしかできないことをしたかった」と説明する、バブル期の本のような遊び心満載なつくりが特徴的。同書ではダイエット、片付け、クレーム、読書など暮らしの中にある身近な出発点から〝親切〟を込めて論考。noteに掲載された「水野しずのおしゃべりダイダロス」の一部を再構築、新たな描き下ろしが加えられ、書籍化された。

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