紀里谷を止めるな!まだまだ観たい 圧倒的画力とメッセージ性 映画『世界の終わりから』

伊藤 さとり 伊藤 さとり
「世界の終わりから」のワンシーン(C)2023 KIRIYA PICTURES
「世界の終わりから」のワンシーン(C)2023 KIRIYA PICTURES

 『CASSHERN』(04)公開時、あのミュージックビデオの監督・紀里谷和明が描く世界とは一体、どんなものなのだろう?と目を輝かせた。その後、『GOEMON』(09)、クライヴ・オーウェン主演のハリウッド映画『ラスト・ナイツ』(15)と手掛け、その後、映画を目にしたのは「MIRRORLIAR FILMS」Season2における山田孝之、松本まりか共演の短編『The Little Star』と、同企画のSeason3で発表された山田孝之監督による短編『沙良ちゃんの休日』での俳優業だった。そんな紀里谷和明監督の最新作は本人によると「監督業、最後の作品」となる映画『世界の終わりから』だ。

 主人公は伊東蒼演じる高校生のハナ。不慮の事故で両親を亡くし、祖母の介護をしていたものの唯一の肉親である祖母も他界。学校でいじめに遭いながらも卒業を前に、バイトをしてなんとか一人で生きていた。そんなある日、政府の特別機関所属だという男がやって来て「君の夢で世界が救える」と告げられる。その夜、ハナはやたらリアルで奇妙な夢を見るのだった。

 『空白』(21)での衝撃、『さがす』(22)での信念ある表情、どれもが忘れられない存在となる伊東蒼。「物凄い女優が現れた」と『島々清しゃ』(17)で12歳にして第72回毎日映画コンクール スポニチグランプリ新人賞を受賞した彼女は、『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)で注目され、様々な監督に呼ばれている。そんな伊東蒼を主演に迎え、生きる希望を失った少女が世界を救う選択を迫られる物語を生み出した紀里谷和明監督。

 本作で描かれるのは“愚かな人間達が招いた終末を救う必要があるのか?”という問い。脳内でフィルムが回り出し、それを脚本に書いていく紀里谷監督の視覚先行型のカメラワークは躍動感に溢れている。更に夏木マリ扮する鍵を握る老女のヘアメイクや仕事場の美術、夢の世界の独創性ある衣装、そしてカラーコレクションで変化をつけた夢と現実の世界で困惑する少女の姿を追う映画は、迷宮に迷い込んだ「不思議の国のアリス」のSFアクション版とも思える。

 この圧倒的な画力と共に紀里谷監督が嘆く世界に対しての強いメッセージは、「優しい人であれ」という願いに姿を変えて観客を覆い尽くす。言うなれば、物語から己の立ち振る舞いに気付かされる現象。まさに映画の持つ力とはこのことだろう。この才能は止めてはいけない、“まだまだ観たい、紀里谷和明監督の作品を”、本作を見終わった直後、私はそう願わずにはいられなかった。

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