「電車は1時間に1本」「学校はほぼ廃校」過疎のまちから全国的アーティストに 吉本所属OWV・佐野文哉

ポーズを決めるOWVの佐野文哉=大阪市中央区の吉本興業本社(撮影・吉澤敬太)
ポーズを決めるOWVの佐野文哉=大阪市中央区の吉本興業本社(撮影・吉澤敬太)

 吉本興業発4人組ボーイズグループ「OWV」のメンバー・佐野文哉(25)は今年10月、地元・山梨県でのイベント出演後に「通っていた学校はほぼ廃校(中略)電車は1時間に一本の地域で育った僕ですがいまOWVとして活動しています どんな環境でも夢は叶うことを僕が体現していきたいです」とツイートし、ネットの注目を集めた。ダンス教室のない過疎のまちで育ち、自ら切り開いた道でエンターテインメントの世界に踏み込んだ軌跡と故郷の子どもたちへの思いを語った。

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 JO1を輩出したオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」(2019年)への出演をきっかけに、20年9月にCDデビュー。コンサートやバラエティー番組に出演し全国的に活動している。オーディション参加前は、有名歌手の後ろで踊るプロダンサーとして活躍していた。

 高校卒業まで暮らしたのは、電車は1時間に1本、最寄りの市街地まで車で1~2時間かかる、「人間よりサルの方が多い」という郊外のまち。「(通っていた)保育園、小学校、中学校が全部廃校になったんです。小学校は僕の時でクラス9人、1個下の学年が3人」と説明する。

 中学校は生徒が少ないため、部活動が野球部と吹奏楽部の2つのみ。「スポーツやりたかったら野球をやるしかなかった」。漫画「SLAM DUNK」を読みバスケットボール部に憧れていたが、選択肢は限られていた。

 ダンスに興味を持ったきっかけは、小学校高学年の頃にテレビで見たナインティナイン・岡村隆史とEXILEのコラボユニット「オカザイル」のパフォーマンスだった。ダンスを習いたいと両親に相談したが地元にダンス教室がなく、隣県にある「リズム教室のようなところ」に通うことに。車で1~2時間かかる距離を親に送迎してもらった。

 中学生以降も本格的なダンスレッスンを受ける環境になく、ヒップホップダンスやブレイクダンスなどはやりの情報を得るには動画が頼りだった。「ガラケーのYouTubeとかでダンス動画をめっちゃ見たりとか。『スーパーチャンプル』っていうダンスの番組のDVDボックスを両親に買ってもらって、自分の部屋でずっとそのDVDを見てダンスの動きを研究してました」。

 当時、佐野のようにダンスへ関心を持つ人は周囲にいなかったという。中学・高校の文化祭では友人を誘って踊りを披露したが、「ダンスとかのエンターテインメントの文化とかが、やっぱり閉鎖されてる過疎地域だとないので。当時、先輩とかに『あいつ目立ちたいだけでしょ』『かっこつけてるだけじゃね?』みたいなこと(を言われることが)があった」。「初めてのものに嫌悪感を抱く一種だったからって今になると思いますけど」と今は理解できるというが、当時は異色の存在ゆえに冷めた目を向けられたこともあった。

 高校卒業後の進路を決める時になると、地元に残り地元で働く人が多いという環境の中、佐野は「大きいことを成し遂げたい」と夢を抱いていた。当時、ダンスの世界は「今ほどメジャーじゃない」時代だったといいい、人気のプロ野球界などと違い最前線で活躍するまでの道のりに想像がつかない部分があったという。「ダンスの世界の天井がわからないからこそ挑戦しがいがあると思った」と、ダンス界での活躍を目指した。

 大学進学を機に18歳で上京。大学2年生の時に本格的にダンスを始めたが、周りのダンサーは幼い頃からレッスンに通ってきた人ばかりだった。「小学校からダンスをやってきた人たちとの差は真っ正面から殴り合っても勝てない」。ダンス教室でスキルアップする王道の方法ではなく、一刻も早くプロダンサーになるための戦略を立てた。著名アーティストと仕事していた振付師にメッセージを送り直接アタック。その振付師が主導するイベントに積極的に参加し存在をアピールした。「レッスンは鏡の前の一番前の一番右みたいな、覚えてもらうことが大事。『毎回ここにいる子』というので覚えてもらった」。次第に振付師から出演を誘われるようになった。

 同時期に、ロサンゼルスに約半年間ダンス留学もした。熱心な自主練習の甲斐もあり、徐々に頭角を現すと、大学3年生の頃には日本の歌手や世界的K-POPアーティストのバックダンサーを務めるなどプロとして仕事を受けるまでに急成長した。

 大学4年時にオーディション番組に参加し、OWVとしてデビュー。3年目の今年10月、フェスイベント「TGC FES YAMANASHI 2022」で凱旋を果たした。「デビューして自分たちの曲を掲げて地元でライブするというのを目標に田舎を出たんで、僕のパフォーマンスを見た時に同じような気持ちを抱く子たちが現れてくれたらうれしい」とかみしめた。

 ダンス&ボーカルグループの一員としてデビューした今、地方出身者がエンタメの世界を目指す難しさに、プロによる「生」のパフォーパンスを見る機会の少なさを挙げる。自身が地元にいた頃は「1回もなかったんじゃないかな」。「僕は山梨で〝生〟を見られなかったので、だからこそ、山梨で僕がパフォーマンスして生を届けたい」と地元の子どもたちを思いやり、山梨でのワンマンライブを次の目標に掲げた。

 3月からは全国4都市を回るコンサートツアー「OWV LIVE TOUR 2023 -CASINO-」が始まる。メンバー・本田康祐の出身地・福島県でも公演がある。「本田も多分、同じような思いを背負って動いてきた人だと思う。福島の若い子たちにも、僕が山梨の人たちに抱いているような思いをぶつけて魅力をお伝えできればと」と意気込んだ。

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