中村敦夫がカルトと信者を描く小説「狙われた羊」を約30年ぶり復刊、宗教装った「不安産業」の本質問う

北村 泰介 北村 泰介
小説「狙われた羊」を約30年ぶりに復刊した中村敦夫
小説「狙われた羊」を約30年ぶりに復刊した中村敦夫

 2022年は激動の1年だった。安倍晋三元首相(享年67)が凶弾に倒れた銃撃事件がその筆頭だろう。山上徹也容疑者(42)の供述から、犯行動機の背景にある旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に関する報道が連日過熱したことを受け、問題の本質を小説という形で描いた作品が30年近い時を超えて文庫本として復刊された。報道番組キャスター、参議院議員などとしても活躍した作家で俳優の中村敦夫(82)が執筆した「狙われた羊」(講談社)だ。中村がよろず~ニュースの取材に対し、経緯や問題の核心、課題などについて語った。

 同作は1994年の出版。89年10月から92年9月までの3年間、日本テレビ系「中村敦夫のザ・サンデー」で司会を務めるなど、ジャーナリスト活動に専念した時期の後だった。桜田淳子ら芸能人も参加した合同結婚式が大衆の関心を呼んで連日報じられたのは90年代初めだったが、中村は主演したフジテレビ系の大ヒット時代劇「木枯し紋次郎」シリーズでブレークする70年代からこの団体に注目していたという。余談だが、中村と桜田は78年公開の東宝映画「愛の嵐の中で」で共演している。

 「93年にワイドショーのゲストとして、団体の成り立ちや背景などについて説明したところ、(当時の)統一教会から名誉毀損で刑事告訴された。そこで、入信していた娘さん(現・飯星景子)を取り戻そうとしていた作家の飯干晃一さん、ジャーナリストの有田芳生さん、全国弁連の山口広さんら7人で反撃の記者会見をやったところ、私への圧力がぐっと減った(結果は不起訴)。それまで妨害を受けていた人々も頑張るようになり、それならば、もっとこの問題について分かるようにしようということで小説を書き始め、半年かけて94年に書き上げたという経緯です」

 物語は、私立探偵がカルト集団に息子を奪われた老人の悲劇を見かねて救出作戦に加わる行動と並行し、勧誘された2人の若い女性が信仰にのめり込んでいく過程も描写される。洗脳、献金要求、政治との癒着…。信者たちが「報連相」(ほうれんそう)という言葉を口にする場面も印象的だ。「報告、連絡、相談」の頭文字を取った教団内の隠語である。

 中村は「何をするにも必ず『報連相』。教団幹部からすれば自由に信者を動かせる。いろんな人が不安になっている社会を背景にした経済活動に対し、私は『不安産業』と名付けています。そのことを伝えるために、弁護士さんのように法的に説明することも大事ですが、どうやって人は精神的に改造されていくかという過程を具体的に示した物語とした方が伝わりやすいと考えた。それで『狙われた羊』というタイトルになった」と明かし、着眼点についても語った。

 「私が注目したのは『マインドコントロール』。人の心理を操り、それをマニュアルとして確立し、お金を集めたり、選挙協力させるといった実利的な部分を宗教や関連団体の名でもってやっている。戦術的に練り上げた、人の心を操るメソッドをうまくマニュアル化し、悩みを持つ人たちを引き込む。そうして引き込まれた人は自分で考える力がなくなり、許可がないと動けなくなる。そこを具体的に描くには『場面』が必要。小説は虚構ですが、同時に本質を伝えられる。『事実を超えた真実』や『本質的な構造』を示すこと。そうやって典型的な信者三人三様の在り方を描いた」

 今回の復刊に、中村は「大文豪の作品でもないかぎり、初版から30年も経って再販というのはまずあり得ない出来事」と指摘。引き金となった元首相銃撃事件が衝撃的というだけでなく、今に通じる問題をはらんでいたということになるが、今夏以降、テレビ番組で取り上げられる度に、一部のコメンテーターが口にする「政治と宗教」「信教の自由」といったワードによって焦点がぼかされる感もあった。

 中村は本書の後書きで「『政治』と『宗教』の二大テーマを大げさに前面に押し出し、(中略)最後は皆でうやむやにしてしまうというゲームが繰り返される。これに『信教の自由』などが加わると、話の範囲は無限大になり、収拾がつかなくなる」と指摘した上で、「問題はそんな高級なレベルの代物ではないということである。私がこの小説で描いたのは、次々と仮面をかえて金儲けに突進する詐欺団体でしかない」と核心を突いた。作品のテーマはいたってシンプル。「なぜ人は操られるのか?」。その疑問を解明することに尽きる。

 まもなく年が明ける。中村は当サイトを通して「2世信者の問題などが残っているが、被害者がカミングアウトし、日本の政治状況が多少なりとも有権者に伝わったという点では前進した部分もある。ただ、マインドコントロールを『不安産業』の経済活動手段として使っているという基本部分まで立ち入っていかないと問題の危険性は分からない。自分の問題として、自分の生活圏で考えていただきたい」と呼びかけた。決して他人事ではないのだ。

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