日本は防衛費をさらに増額することになったが、その「中身」についてはまだ議論が尽くされていないという指摘もある。ジャーナリストの深月ユリア氏が元防衛大臣である自民党の石破茂衆議院議員にインタビューし、課題点や今後のあるべき対応策などを聞いた。
◇ ◇ ◇
政府は防衛力の抜本的強化に向け、来年から5年間で現行の1・5倍以上の約43兆円の防衛費を確保し、与党は防衛3文書(国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画)を改訂する方針を閣議決定した。しかし、防衛費の具体的な「中身」は議論されておらず、予算を増やしても結局は「米国の古い武器の在庫処分場にされる」という可能性も指摘されている。 元防衛大臣である石破茂氏は防衛文書改訂についてどう考えるか。
-増額した防衛費の多くが米国の武器の「割高なお買い物」として使われそうだという指摘もあるが。
「一部メディアが『トマホークを保有』と、何だか大層な兵器を保持して攻撃能力が飛躍的に増大するかのごとき幻想に国民を導くような記事を書いていましたが、それもいかがなものかと思います。巡航ミサイルの基本原理は飛行機と同様なので速度が遅く、迎撃される蓋然性が高いこと、目標に到達したときには既に攻撃目標が移動もしくは潜伏している可能性が高いことに加え、弾道ミサイルに比べて貫通力や破壊力に乏しい、というデメリットもあります。全体の構想における“反撃力”の位置づけを明確にしたうえで、他の手段も併せて取得せねばならないのではないでしょうか」
-防衛費の「中身」は何に使うべきか?
「議論が偏った装備品に集中しがちですが、ミサイルや弾薬と合わせて、予備役(予備自衛官)の確保、医療・衛生の体制整備、シェルターの具備等々、継戦能力を保持するための施策こそ、この際きちんと整備充実すべきです」
-シェルターの必要性については20年前から訴え続けている。
「国民を避難させるシェルターが重要なのであり、これについての議論がほとんど見られないのは怠慢か無責任のそしりを免れないと思います。『お買い物』が大事で、国民保護を等閑視(※無視して放っておくこと)するのでは、『防空法』で市民に空襲時の避難を禁じて消火活動に当たらせ、多くの犠牲者を出した戦前戦中の日本と何ら変わりません」
-かねてより日米統合司令部の創設の必要性を訴えているが。
「現状では有事の際にいちいちアメリカと相談をするようなことになっていますが、有事の際にそんな余裕はないので、今ただちに有事になれば、実際上は日米バラバラで行動することになるでしょう。日米同盟がより効果的に機能するためには、常設の日米統合司令部の創設が必要不可欠です。創設すること自体が極めて大きな抑止力となります。日本側からこれを提起し、米軍の作戦に積極的に関わる体制を作らないと、日本の知らない米軍の作戦行動が起きる余地が出てしまうと思います」
-現在の自衛隊の運営体制にも「日本独自の不備」があるというが。
「陸・海・空の三自衛隊『統合司令官』の創設や、各国に駐在する防衛駐在官(武官)を現在の外務大臣の指揮監督下から防衛大臣の指揮監督下に移し、本来の役割を果たさせる、などの法改正も急務です。自衛官の最高位である統合幕僚長はあくまで『総理や防衛大臣の最高の専門的助言者としての幕僚の長』であって、司令官ではありません。だから米軍のカウンターパートも統合参謀本部議長であって、実際に米軍を指揮するインド太平洋軍の司令官ではありません。総理や防衛大臣に助言をしながら、三自衛隊を指揮するなどということはどんなスーパーマンでも不可能です」
-「お買い物」より、まず国民保護のための「法整備」が重要だということですね。
「手間がかかるからと法改正を先送りしては、どんな装備品を調達し、どれほど予算を増やしても、わが国の効果的な防衛に資することができないと思います」
防衛費の予算だけを増大しても、国家の最たる役割である「国民保護」はできないどころか、むしろ「〝中身〟のない軍事大国」として国民を危険にさらすような状態になりかねない可能性がある。