年の瀬を迎えた。年が明けると百貨店などに並ぶ「福袋」が正月の風物詩となっている。商品の中身が分からないというギャンブル性のある「袋」を購入する人間の心理とは、どのようなものなのだろうか。また、採算を度外視したような福袋の内容が成立する理由とは?さらに、コロナ禍を契機として、従来のスタイルを根底から覆す「可視化された(中身が見える)福袋」も登場しているという。ジャーナリストの深月ユリア氏がアパレル業界を例に挙げ、現在の「福袋事情」について各ブランド店のスタッフや利用客に取材。さらに、購入する側の人間心理に関して専門家に見解を聞いた。
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毎年、新年の楽しみの一つが「福袋」だ。アパレル業界を例に挙げると、「スナイデル」「アクシーズファム」「リエンダ」「オリーブデオリーブ」といった若い女性向きブランドの福袋が人気のようだ。
「アクシーズファム」の神奈川県内にある店舗に勤務する20代女性店員は「1万1000円の福袋は3万円分くらいの商品が入っています。通常は定価格1万円以上するようなコートも入っているので、コートだけでも元がとれますね。日頃の感謝を込めて、ご予約されたお客様限定で店頭販売されていない福袋オリジナル商品を制作しています」と語る。
「リエンダ」の都内店舗に勤める20代女性店員は、アウター(※衣服の一番外側に着る上着)、ワンピース、スカート、トップス(※上着)などの商品がランダムで詰まった1万1000円の福袋について「店頭に出されていた商品が、6万5000円-7万円分入っています。お得感はあると思います」という。
「リエンダ」の福袋を毎年リピートして購入している都内在住の30代女性によると、「(福袋には)アウトレットサイトに売り出されている洋服が入っています。かわいく、気に入っていますが、既に定価で買ってしまった商品と重なったことがあり、その商品はメルカリで転売しました。コロナ禍で服が売れず、アウトレットで余った服が増えているので、余った服を福袋として売るお店は多いでしょうね」と、採算度外視の価格となっている理由の一つを推測する。
「オリーブデオリーブ」は1万2500円の福袋(2種類)を販売するが、オンライン上で福袋の中身が公開されていて、1点ずつの商品説明や寸法まで細かく記載がある点が注目されている。同ブランドの都内店舗の20代女性店員は「中身が見えない福袋ですと、開けてみたら『好みじゃかった』ということがありますので、中身の見える福袋を販売します」という。
今年は他ブランドでも 「中身の見える福袋」が増えているが、東京・渋谷の〝顔〟的な商業施設「SHIBUYA109」の元店員だった30代女性は「コロナ禍で外出が減り、買っても着なそうな服に若者がリスクをかけてお金を使わなくなったためでは」と指摘した。
コロナ禍の傾向として、「密」な状態を避けるために、年始に「行列で並んで福袋の争奪戦をする」という風物詩が見られなくなり、多くの店舗がオンライン予約販売に移行するか、コロナ禍になってから福袋の販売を中止する店舗も増えている。
福袋を買う心理について、心理学者の富田隆氏に取材したところ、同氏は「縁起の良い『福袋』という名前に『おまじない』のような『暗示』の効果があります。そして、何が入っているか分からないのは『ギャンブル』ですが、年に一度『福を呼ぶ運試し』といった福袋の特性が一種の『免罪符(言い訳)』となり、普段は心の底に抑え込んでいるギャンブルや過剰消費への願望(蕩尽欲求)が、一気に解放されるのです。この快感が習慣化し、場合によっては依存症傾向に陥る危険性もあります」と解説した。
お財布とはしっかり相談して、ぜひ、良い福袋を選んで(中には売れ残りの詰め合わせもあるが)、楽しく縁起稼ぎをしよう。